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職業は武装解除 瀬谷ルミ子

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期待していなかったのですが、とてもいい本でした。
著者は職歴などを見るかぎり私と同学年の方です。
私と同い年でこんな活動をされているとはとても尊敬いたします。

平和を求めるときに、実務を通じて感じられたであろうある種の矛盾が非常にリアルでした。
是非、みんなに読んでいただきたい本です。
左も右も関係なく一般の人が読めばすべからず、自分たちの考えが所詮は頭のなかの妄想にすぎないことを実感することと思います。

彼女は日本紛争予防センターの事務局長です。

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私は、現地を訪れるまで「和解」とは良いことだと信じて疑わなかった。
でも、その言葉を口にした時の現地の人々の表情を見て、自分が間違ったことをしているとやっと気づいた。
部外者の私の無神経な問いは、たとえば日本で犯罪被害者の家族に、加害者との和解について尋ねるのと同じようなものだった。
私が家族を失った立場だとして、ある日フラッっとやってきた外国人に、
加害者と和解しない理由を問い詰められたら、どんな気分になるだろう。
被害者の心の傷を深める、いわば「言葉の凶器」と感じるのではないだろうか。

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ルワンダにて

別の囚人は、自分は加害者であると同時に、被害者でもあると話した。
目の前にいるツチ族を殺さなければお前を殺すと、銃を頭につきつけられて脅されたため、
友人をナタで切りつけるしかなかったのだ、と。
妻を殺さなければ、子供を殺すと迫られたものもいた。
自分と友人、自分と家族、家族と家族、その生命を天秤に掛けざるを得ない極限の状況。
ルワンダの虐殺被害者は80万人から100万人と言われている。
20万人は、世界にとっては、誤差なのだ。
そこに生きていた一人ひとりが認識されることはない。


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両親を殺され孤児になった子どもと、30人を殺した子ども。
手を差し伸べられるべきなのは、どちらだろう。

「お母さんが、もうぼくは帰ってこなくていいってさ」
「それは、どうして?」
「お父さんに、してはいけないことをしたんだ。
だから、もう家族には要らないって」

十二歳の男の子ミランは、シエラレオネ北部の彼が住んでいた村から、
反政府集団であるRUFに誘拐された。
村が襲われた時に、自分の父親の腕を切り落とさなければお前を殺すと脅され、怖くて仕方がなく、従ってしまったという。
家族も、その現場を目撃していた。
その後も、RUFに参加しながら、いろいろな村を襲い、多くの人を殺したという。
その時のことは思い出したくない、とミランは暗い表情で言った。

子どもを洗脳し軍の言いなりになる都合の良い「兵士」とするため、上官は誘拐した子どもを脅して自分の住んでいた村を焼き討ちさせたり、親や教師を殺害させたりする。
麻薬やアルコール漬けにされ、銃を持たされ村を襲わされた八歳の子どももいた。
こうすることで、子供たちは帰る場所がなくなり、軍で過ごす以外、居場所がなくなる。

中には、志願して兵士となった子供たちもいる。
兵士になれば、貧困で食べるものに困る心配もない。
銃を持ったかっこいい大人の一員として認められるという背伸びしたい年頃の子供の心理も、巧妙に利用された。

シエラレオネで、18歳未満でありながら、兵士として武装勢力に参加していた子どもは、公式に判明しているだけでもおよそ7千人。
戦死した子どもは含まれないため、実際にはさらに多い。

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アフガニスタンの人々の日本への好感度は高い。
第二次大戦中に欧米から攻撃を受けて荒廃した歴史に自分たちを重ね、政治的な思惑無くアフガニスタンへの支援を行う姿勢に純粋に感謝する人々も多かった。

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珍しいケースだが、私の知り合いには、現地に出来たガールフレンドともめているので、
とりあえず逃げたい、という人がいた。
私の元男性上司も、アフリカのある国で、現地でできた彼女と別れ話でもめて、
相手がヒットマン(暗殺者)を雇い、殺されかけ、彼女の倍の報酬を払うとヒットマンと交渉して、
命からがら難を逃れたと言っていた。
・・・笑えない話だ。

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著者が国連の同僚となにげなく話した言葉
このことがきっかけとなり日本に戻り、日本紛争予防センターの事務局長となる。

「日本の外交って、なんとなく頼りない。
国際協力や武装解除にもお金はたくさん出してるけど、専門家もほとんどいないから日本としての顔が見えないし、一貫性がないから印象に残らないんだよね」
「紛争地での長期的な支援に専門的に取り組むNGOも、日本にはほとんどない。
NGO自体がプロとして活躍している欧米と比べても、財政基盤もまだまだ弱い。
待遇も厳しいから、良い人材が集まりにくい」
「日本では、多くの人が国際問題なんて関係ない世界のことだと思ってる。
日本の世論も、世界の紛争や平和の問題への関心が薄い。
メディアも、視聴率が取れないらしくて、あまり取り上げないみたい」

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「ソマリアで人気がある男性は・・・国連職員か、海賊かな」
「そうなんだ・・・」
単なるおしゃべりも、ときには現地の情勢を捉える貴重な情報源になるものだ。
海賊を海の上でどれだけつかまえても、その職業へのあこがれが女性にまで浸透している状態では、もぐらたたき状態で希望者は増えるばかりだ。
海賊や武装勢力に参加する若者が多いのは、他に仕事が無いからだ。
でも、もし、その職業がある種のあこがれの対象や流行にまでなっているのなら、
雇用を増やす取り組みだけでなく、心理的に意識を変える取り組みも必要になってくるだろう。

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兵士や住民たちが暴力に訴え、殺傷能力が高い銃火器を使えば、死傷率は高まり、被害者も増える。
だから武器の製造や売買に制限をかけつつ、現場で不要な武器を回収・破壊することができれば、被害は大きく食い止められる。

しかし、日本から銃やナイフなどをなくせば、凶悪犯罪はなくなるのか、
また、銃やナイフを全てなくせるか、という問いと置き換えて考えてみれば自明なように、
犯罪に使われる凶器全てを回収するのはほぼ不可能だ。
それに凶器というのは、あくまで犯罪を行う「手段」であり「道具」なので、
その使い手である「犯罪者」や「犯罪の動機」にも対処しないと、結局別の方法を使って犯罪が行われることは防げなくなる。

紛争地でも同じように、「武器」をなくすだけでなく、その武器を使って戦いに参加した「兵士」や「戦闘員」が再び争いや暴力を行わないようにするための対応が必要になるのだ。





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