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命もいらず名もいらず 山本兼一

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命もいらず名もいらず 上 幕末篇 (集英社文庫)/集英社
¥872
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山岡鉄舟というラストサムライの伝記です。
これに比べたら映画ラストサムライのサムライなど「ちょこざいな」感じです

はっきり言って、現代でここまで徹底した人がいたら・・・恐いです
でも、人間として生きる上で参考になる生き方ではあり、オススメです。
なんと、死に直面して、立ち上がり、明治天皇の住まい(皇居)に向かって
正座をし、そのまま息絶えたという。

彼は幕末に生まれ、幕府方の武士であったが、
新撰組の設立に関わっていたのにびっくりしました。
戊辰戦争が終わり、明治維新になると、
明治天皇の侍従になり、身辺警護を行うとともに、
明治天皇の精神面での教師となりました。

本のタイトルは鉄舟と西郷隆盛が、江戸城明け渡しの前に話し合った際に、
西郷が
「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困りもす」
鉄舟「始末に困るとは、どういう意味でござろうか」
西郷「そういう始末に困る人物でなければ、艱難を共にして、
国家の大業は為せぬということでございもす」
という会話から来ている。

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山岡鉄舟が若いころ、師の井上清虎との会話
井上「さよう。人というもの、ついおのれを過信し、他人を見下す悪癖がある。
おのれが正で他人が邪、おのれが清く、他人が穢れていると思いがちだ。
世の多くの人間が、そう慢心して生きておる。
まこと、ばかばかしいかぎりだが、とかく人とは愚かなものよ」

鉄太郎(鉄舟の若いころの名前)「人は愚か・・・、でございますか」
鉄太郎がたずねると、井上清虎が杯を干した。
「世に棲む九割の人間が凡愚と思うてまちがいない。
ただし、なかには慧眼の士、具眼の士がおるゆえ、初対面の人に接するときは、
ゆめゆめ侮ってはならぬ」
「九割が凡愚・・・と、おっしゃいますか」
(略)
「もっと多いかもしれんぞ」
(略)
「しかし、それでは、世の中には凡愚な者ばかりが満ちているということになります」
「そうよ。世の中ばかりではない。このわしも凡愚。おまえも凡愚。
どうだ、自分だけは凡愚にあらずと思うておったのではないか
鉄太郎は、井上の問いかけに胸を突かれた。
じつのところ、世に棲む九割が凡愚だと言われて、そのなかに自分を数えていなかった。
残りの一割の賢者に入っていると思っていた。
「はは。図星であろう。ためしにいまの話をだれかにしてみるとよい。
まず大抵の者は、なるほど世に愚か者は多いと納得した上で、
じぶんは九割の凡愚にあらずと思うておる。
人間とは、それほど愚かなもの



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後に婿入りして家を継ぐ事になる、師の山岡静山との対話
山岡静山「誰に対しても、なにごとに対しても誠実であること。それこそが修行の極意だ」
鉄太郎「はい」
「兵は詭道なり、などというのは、唐国の軍師にまかせておけ」
孫子の兵法について言っているのだ。
詭道とは、人を欺くことにほかならない。
「日本人なら、正直が何よりだ」

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攘夷派が勝海舟に詰め寄ったときのこと
「勝先生は、開港通商をとなえておられますが、なにゆえでござろうか。
横柄な外国人が腹立たしくはござらぬのか」
勝「なんだい。また肝っ玉のちいさい野郎が来たね」
「肝っ玉が小さいですと」
「そうさ。夷狄が憎いなら、どうして対等に戦おうとしねぇんだ。
おまえさんらの攘夷は、子供の喧嘩だ。
いやなことがあったら、目をつぶって、知らんぷりを決めこんでやがる。

そんなことじゃ、軍艦と大砲にゃ勝てないよ」
鉄舟「では、どうするとおっしゃるのですか」
勝「おまえさんなら、どうするね?」
逆に、聞き返された。
「それは・・・」
鉄舟は、すこし考えた。
一対一の戦いなら、相手が槍で、こちらが小太刀でも、勝機はある。
しかし、国と国との合戦では、そうもいかぬ。
力と力の勝負。
体力の違いがものをいう。
「こちらも、軍艦と大砲が必要です」
「いまの日本に、蒸気船がつくれるかい?性能の良い大砲がつくれるかい?」
たたみ込むようにたずねられて、鉄舟は腕を組んだ。
たしかに難しかろう。
「だから、国を開くんだ。
なにも連中の腰巾着になるために国を開くんじゃない。
こっちも力をつけて、対等に渡り合うために、国を開くんだ。
いまは、夷狄のほうが強いことを、素直に認めなきゃなるめぇな」
国を考えるなら、なによりも大切なのは、民草さ。
民草がどうすれば日々安穏に生きられるかを見定めれば、道は間違えんよ

「どうすれば、民が平和に暮らせるというのですか」
「幕府と朝廷が、融和することだ。
国の中で喧嘩しているご時世じゃねぇぜ、まったく」

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大政奉還後、食い扶持に困った幕府方の武士が
「打ち壊しでもなんでもするか」
と言っていたのを耳にして鉄舟が次のようにいいました。

「おまえたちは、そんなにじぶんの身がかわいいか」
「じぶんの食い扶持を得ることが、そんなに大事か」
男なら、人の身を案じろ。
困窮するのは、おまえたちばかりではない。
今の世の中は、だれもが困窮しておる。
それをなんだ、打ち壊しでもなんでもしてとは。
それで男子として恥ずかしくないか


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鉄舟の最後に残した教訓

金を積みて以って子孫に遺すも、
子孫、未だ必ずしも守らず。
書を積みて以って子孫に遺すも、
子孫、未だ必ずしも読まず。
しかず。陰徳を冥々の中に積みて
以って子孫長久の計を為さんには、
これ先賢の格言にして、
すなわち後人の亀鑑なり

子孫のために、金を積み、書を遺しても仕方がない。
子孫が長く栄えるためには、ただ人知れず陰徳を積むしかない


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