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原発事故と放射線のリスク学 中西準子

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この本はとてもよかった。
放射線のリスクをとても現実的な観点から解説している。

リスクとベネフィットの比較、
この原発事故で言えば
除染を一定程度にしておくことで起こるリスクと、
それに伴うメリットを金額として比較するという考えは面白い。
自然科学の理論系の科学者ではなかなかこうは発想できないと思う。

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放射線による人体影響の評価や判断は、広島・長崎での原爆投下による影響調査を基にしている。
原爆の洗礼を受け、しかし、死は免れた方々から選ばれた
約12万人の60年以上に渡る追跡調査で、
寿命調査(LSS)と呼ばれ、世界中の専門家がこの調査結果を使っている。
これは、筆者が見てきた化学物質の影響についての疫学調査結果と比較すると、
段違いにしっかりした調査研究である。


その利点を列挙すると、
①動物試験の結果ではなく疫学データ(人のデータ)である。

②対象者が合理的に選ばれていること(年齢分布にも偏りがない)

③被曝量推定の精度が高い(どこにいたか、木造の家か、コンクリートか、爆心地方向に大きな家具があったかなどの聞き取り)。被曝量推定方法については、何回か改定されている。

④60年以上にわたって、死亡情報がほぼ確実に得られている。


⑤完全ではないが、羅漢情報もかなりの程度得られており、ICRP2007では、
その羅漢率情報が活用されている。


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ICRP2007

子供のリスクについては、
「委員会は、子宮内被爆後の障害リスクは、小児期早期の被爆後のリスクと同様で、
最大でも集団全体のリスクのおよそ3倍と仮定することが慎重であると考える」

ここまで
ICRP2007勧告については、ICRPのサイトから日本語で見ることができる。(PDF
上記コメントはこのPDFの3.4「胚及び胎児における放射線影響」にあります。
「慎重」としているので、どんなにリスクがあるとしても3倍もありません、ということ。

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放射線による健康影響(ここでは固形がん)を考える際には、私たちは、
1Fの事故のせいだけでなく、いや、むしろその100倍もの放射線を日常的に受けている
という事実を忘れてはならない。
自然起因の放射線を受けているから、
それに比べてれば低い事故由来の放射線の影響を問題にするのはおかしい
という論を張る人がいるが、それは間違いだと思う。

自然要因が大きければ大きいほど、人為的なものを減らす努力が必要なこともある。
自然は人間にとって最も大きなリスクであるから。
ただ、自然起因の要因が大きい場合には、全体のリスクを見据えた上で、
効果を考えながら対策を考えることが重要である。

そして、次に重要なのは、事故由来の放射線の被曝は、
ゼロから始まるのではなく、すでに被曝があるところに足されるということである。

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放射線被曝のリスクは、禁煙といった自助努力で低下する。




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福島県によるWBC検査(内部被曝量を知るための検査)が始まったのは2011年6月
2011年6月から2012年1月31日までの1万5408人の調査では、
預託実効線量が1ミリシーベルト未満の人が99.8%以上で、
1以上1.5ミリシーベルト未満の間が13人
1.5位上2.5ミリシーベルト未満が10人、
2.5以上3.5ミリシーベルト未満が2人であった。

この調査は、今も続けられており、2013年8月31日までには、さらに、
13万4183人の検査が行われ、その結果が報告されている。
この結果では、1.5ミリシーベルト以上はおらず、
1ミリシーベルト以上1.5ミリシーベルト未満が1人いるだけで、
残り全員が1ミリシーベルト未満である。

ーー中略ーー
外部被曝
最高値は25ミリシーベルト


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なぜ、専門家の先生たちは何回も何回も、小児甲状腺がんの発病率は
100万人に2~3人というのだろう。
これは羅漢率である。
チェルノブイリの数字も手術を受けた人の数である。
この数字を出されたので、我々は、それと検診の結果とを比較してしまった。

ここまで
つまり、検診の結果、ガンの疑いありと検診結果を受けたとしても、
実際にそれが「悪性腫瘍で手術が必要」には殆どの場合至らない
ということだろう。

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20ミリシーベルト未満なら帰還可能だが、長期的には1ミリシーベルトを目指すというのが国の目標値であることを再三強調していて、これは、ずっと変わっていない。

しかし、避難者のほとんど、また、多くの関係市町村長も、
”長期的には”とは考えずに、帰還時の年間被ばく線量が1ミリシーベルトと理解し、
また、それを聞かれた政治家が認めるような返答をしたこともあって、
いつの間にか、1ミリシーベルトが目標値のようになっていった。

しかし、先にも述べたとおり、年間1ミリシーベルトの目標値となると、
今の除染計画では、ほとんどの区域で帰還不能となる。
筆者は、1ミリシーベルトは不可能という実体を認め、
また、20ミリシーベルトは通常の生活環境としては高すぎるので、
それに代わる新しい目標値を決めるべきだと主張しているが、
国は今でも新しい目標値を示していない。

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100ミリシーベルトの意味は、私も書いてきたとおり、
たまたま、あの調査の規模で被害を証明できないということにすぎない。
しかし、他に例がないほどの大規模な調査の結果である。
また、誰もがその原因を知っている。
原子爆弾が落とされて、多くの人が死んだというそのことを知っている
そういう被害で、あの規模の調査をして影響が見えなかった。
その事実は共有できるはずだ。


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当然ながら地価が100%回復することはありえないでしょう。
前例がないので概算は難しい面がありますが、半分まで回復しても1兆円に満たない便益しか得られない。
ーー中略ーー
被害総額は1.7兆円、除染による最大便益が1兆円というのが一番シンプルに算出されるベンチマーク金額です。
ここからが考え方の問題です。仮に除染が1.8兆円でほんとうに住むとしてですが、
当然地域に与えた経済的な損失が1.7兆円なのだから、
それに相当する除染コストを掛けてしかるべきだと考える方もあるかもしれません。
しかし、これは経済学的にはあまり妥当な考え方ではありません。
むしろ比較すべきなのは除染費用(1.8兆円)とそれによって得られる便益(1兆円)です。
この比較では除染は経済的には全くあわない投資だという判断になる。
あとは住民の方が市場価格はともかく自分にとっては市場価格の倍の価値があったのだと考えるか否かですね。

ただし、これでもまだ過大推計である恐れが残ります。
この地域の償却資産と家屋評価額の少なからぬ部分はおそらくは
東京電力や関連企業の所有物であると思われます。

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米国で意思決定が行われた132の発がん性化学物質の規制の結果

Aライン(傷害死亡確率が4*10のマイナス3乗、1000人いて4人)より上は、
ほとんどすべて規制されている。

また、Bライン(10のマイナス4乗、1万人に1人)以下は、規制されないリスクの限界である。

この2つの直線の間のリスクが、規制されるか否かは、コストなどの他の要因で決まる。
二つの直線が右のほうで大きく下に曲がっているのは、
影響を受ける人口が大きければ、厳しい規制が適用される事実を反映している。

この二つの線の間でも、救済される人命当たりの帰省費用が200万ドル以上の物質は、
1つの例外をのぞいて規制されていなかった。

ここまで
この点に関しては、アメリカは非常に進んでいると思わざるをえない。
日本はどうなんだろう。



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