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警察庁と都道府県警察

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日本の警察 「安全神話」は終わったか 佐々淳行より

各自治体警察は、都道府県公安委員会の指揮下に入った。
公安委員は知事が都道府県議会の同意を得て任命するが、警察庁が総理大臣の指揮を受けないのと同様、各警察本部は知事の指揮命令を受けるわけではない。
あくまでも政治的に独立した組織なのだ。
中央の警察庁からも指揮監督は受けるが命令は受けないわけだから、
各都道府県警察のトップである本部長は、一種の独立指揮官職ということになる。

では中央のコントロールが全く利かず、各警察がバラバラに動いているのかというと、そんなことはない。
直接コントロールすることはできないが、警察庁は警察法に基づいて地方に対する関節統治を行っているのだ。

その手段として、第一に警察庁は人事権を握っている。
警察官は基本的に地方公務員だから、中央の警察庁が人事に口出しをするのはおかしいと思う向きもあるだろう。
しかし、警察官はすべて地方公務員なのではない。
警察の階級は、下から巡査、巡査長、巡査部長、警部補、警部、警視、警視正、警視長、警視監、警視総監という構成になっているのだが、
このうち地方公務員は「警視」まで。
警視正以上の警察官は、昇進した時点で自動的に国家公務員になるのである。
地方の本部長になるのは警視長か警視監だから、これは当然、国家公務員。
したがって、人事権を警察庁が掌握することに何の問題もない。

第二に、警察庁は全国の警察の装備を掌握している。
制服、拳銃、警棒からパトカー、機動隊の輸送車にいたるまで、警察が使用する装備は一部地方自治体負担もあるが、ほとんど国有である。
地方の警察本部は原則としてその貸与を受けるもので、自前の装備を調達することは少ない。

第三に、通信手段を押さえることによって、警視庁は地方を関節統治している。
警察が全国津々浦々に張り巡らしている「警電(警察通信)」は、NTTとは別の独立した有線通信系統で、これは警察庁情報通信局の所管なのだ。

さらに第四の統治手段として、警察庁は警官の教育訓練を一手に引き受けている。
警察は、各都道府県に警察学校、昇任または現任教養の教育のための各管区警察学校および警察大学校といった教育訓練機関を持っているが、
そのカリキュラムを地方の本部が勝手に作成することはできない。
すべて警察庁の教養課が決めた規格に沿った形で教育・訓練が行われているのである。

そして第五に、警察庁は警備予算を握っている。
機動隊を運用するための予算は、各自治体ではなく、国費から出されているのだ。

ーー中略ーー
ただし妥協の産物であるが故に、現在の警察制度はもう一つ、ひどく現実的な矛盾を抱え込んでいる。
賃金体系が地方公務員と国家公務員とで異なるため、給与が職階制に比例して上昇しないという歪みが生じているのだ。

前述した通り、警察官は警視正になると地方公務員から国家公務員になる。
階級が上がり、国家公務員になれるのだからいいことずくめだと思うだろうが、実はこれ、収入という点ではあまりありがたくない。
多くの方が誤解していると思うのだが、少なくとも警察の場合、給与水準は国家公務員より地方公務員のほうが10%ほど高かったのだ。

したがって、警視が警視正に出世した途端に給料が下がるという珍現象が起こる。
そのため優秀な警視が昇給を嫌がるという、一般企業では考えられない事態が現実に起きているのである。
昇級が昇給に直結しないのでは、それも無理は無い。



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