現代ビジネスの記事を読んで興味を持ったので著者の本を借りてみた。
<単純な論理には罠がある>
「タバコを一定数以上吸う人は、アルツハイマー病にかかる割合が低い」というデータがあります。
これはウソでもなんでもなく、統計学的に見て間違いのない事実です。
では喫煙の習慣は脳によい影響をもたらす、といってしまってよいのでしょうか。
実際には、タバコにはそうした作用は今のところ見つかっていません。
実は煙草を吸う人はガンなどの発症率が高いため、
アルツハイマー病が発症するまで生き延びる率が低いからだというのが正解です。
ーー中略ーー
「今の日本でガンが増えているのは、食品添加物などの化学物質の影響だ」
と主張する人がいます。
確かに現在日本人の死因の1位は癌であり、その割合はさらに増え続けているのは事実です。
ではこのロジックを簡単に認めてしまって良いのでしょうか?
この論理の欠陥は、日本人の平均寿命が伸び続けているという単純な事実を見落としている
(あるいは故意に見としたふりをしている)点にあります。
ガンはその性質上、年をとるほどかかる確率が上がっていく病気です。
一方、かつて死因の上位を占めていた結核や脳卒中などの病気は、
医薬の進歩などによってかなり治療・予防が可能になっています。
要するに、かつては若い人の命を奪っていた病気がほぼ駆逐されたために、
いまだ治療率の低い病気であるガンによる死亡率が相対的に上昇しているに過ぎません。
<リスクはつきもの>
我々は生きていく上で、どのくらいのリスクを許容すべきなのか
ロンドン大学のジョン・エムズリー教授は、
「1万分の1以下のリスクなら、受け入れるのが現代人の姿勢だろう」と提案しています。
これがどのくらいの数字かというと、
母親が出産時に亡くなる確率
三つ子が生まれる確率がいずれも1万分の1レベルであるそうです。
ーー中略ーー
また交通事故で亡くなる確率もほぼ1万分の1前後ですから、
我々はすでにこのリスクを受け入れて現代の車社会を生きているとも言えます。
ちなみに先程の例で言えば、
大気中のベンゼンによってガンを発症する人は、約10万分の1レベル
であると算出されるそうです。
それを思えば、空気や飲料中のベンゼンを気にするより、
交通事故に気をつけるか、肥満解消のために運動の一つもしたほうが
よほど身のあることだとわかるでしょう。
<ビタミンC信仰>
健康のイメージが強い化合物の代表であるビタミンC
ノーベル賞を2度受賞したライナス・ポーリング博士は
それまで言われていた一日1000ミリグラムを撮れば風邪にもガンにもならないと主張した。
残念ながらこの説は現在否定されており、ポーリングもその妻もガンで命を落としている。
<サリドマイド、最大の薬害>
サリドマイドは1957年、痛み止め、鎮痛剤としてドイツのグリュネンタール社で
開発された薬剤です。
しかし1961年、西ドイツの小児科医レンツ博士が、
手足の短い重度の奇形児が多数産まれていることを発見し、
これがサリドマイドのせいであることがわかりました。
サリドマイドの薬害例は約5800例あまりあり、全世界に広がっていました。
このサリドマイド事件がきっかけとなり、新薬の審査基準に、妊婦が飲んだ場合
胎児への影響がないか確認することなど、が義務付けられるようになった。
こうしてサリドマイドは「悪魔の薬」という世界中の非難を浴びて表舞台から消えたのですが、
1964年に驚くべき発見がありました。
イスラエルの医師ヤコブ・シェスキンが、ハンセン病の痛苦で衰弱しきった患者に、
最後の手段としてサリドマイドを投与したのです。
と、患者を苦しめた激痛はたちまち消え去り、皮膚のただれにも劇的な改善が見られたのである。
この発見はたちまち世界中に伝わり、多くの患者を死の淵から救い出しました。
この発見により全世界のハンセン氏病治療院の9割が必要なくなって閉鎖されたといいますから、その効用の素晴らしさがわかるでしょう。
1998年には、アメリカ政府は重い腰を上げ、サリドマイドをハンセン氏病治療薬として承認しました。
他にもガンやエイズウイルスにも効果があるのではないか、とサリドマイドは注目を浴びている。
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化学物質はなぜ嫌われるのか 佐藤健太郎
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