この本はかなり面白い。
主テーマは、人は環境によって悪事を犯すのか、それを防ぐにはどうするのか
といったところだろう。
かなり分厚いが、面白いのは前半部分の実験
著者がベトナム戦争時に、大学の学生をアルバイトで雇い、以下のような実験を行う。
監獄を模倣した施設を作成し、学生たちに囚人あるいは看守役になってもらうことを伝えておく。
囚人役は、開始日に特定の場所(家、あるいは指定された場所)にいてもらい、
そこで公衆の面前で警察に逮捕される。
監獄に入った後は、すべての活動をビデオカメラを通じて著者たち研究者が監視を行う。
結果は、ものの見事に囚人や囚人のような心境に、看守は看守のようになり
看守は囚人に対して理不尽な意地悪を始めていく。
どちらもこれはロールプレイであることは最初はわかっていたはずなのだが、
やっているうちに囚人や看守になりきってしまっているのが興味深い
当初2週間の予定だったが、1週間で実験を中止せざるを得なくなっている。
本の最後に、人はこうした環境に影響されがちだが、それに負けないための対処法が紹介されている。
1.人間は間違えるもの、という格言を受け入れ、過ちを認めること(うそをついてごまかし続けない)
2.心を働かせ、影響の与える側の言動に注意を払い、批判的思考を促す
3.責任転嫁をせず、自分の決定と行為に責任を持つ
4.他人が自分を没個性化し、あるカテゴリーや箱や枠に押し込み、もの扱いすることを許さない。他人に対しても同じように心がける
5.正しい権威を尊重し、不正な権威には反抗する
6.集団に属することを望みつつ、自立も大切にする
7.ものごとの枠組みに用心する。枠組みをつくるひとは、芸術家か詐欺師になる。
8.時間的視野のバランスを保つ。過去の責任感や未来の義務感を無視するようになると、人は状況の誘惑につけ込まれ、極端に走りたくなる。
9.安全の幻想のために個人と市民の自由を犠牲にしない
10.不正なシステムに対抗できる(これが一番難しい。3人以上同士を集めるのだそうだ)
================
肝心なのは、だまされた人たちは自分とは違うと考え、彼らには負の気質(愚かさや無知)があるなどと決めつけないことだ。
そうではなく、自分と変わらない人々がなぜ、どのようにして、すっかりだまされてしまうのかを理解しなくてはならない。
そうすれば、ペテンに抵抗するすべについての認識を深められるはずだ。