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僕たちは戦後史を知らない 佐藤健志

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哲学論から、歴史を捉えているように見える。
私は現実主義的に考えたいので、この方の考えには賛同できない。
なんか、頭のなかだけで完結させている気がするんですよね。
しかもこの本、10年前ならわかるけど去年の本にしては・・・・ッて感じです。

ただ、以下の著者のまとめはある程度秀逸だと思う。

=============

我が国の保守(ここでの保守は親米保守のように思える)は、
「ファンタジーの戦後史」を適当に歪曲することで、現実との両立を試みたのだ。
その論理構造は次のようになる。

(1)「公正な平和をもたらす世界新秩序の構築」は、もちろん崇高な理想だが、
冷戦の現実も直視しなければならない。
だとしても、この新秩序を構築する最大の担い手は、やはりアメリカである。

(2)新秩序構築を担っている以上、逆コースや朝鮮戦争勃発の後でも、
アメリカは「真の日本」と呼びうる。
したがってアメリカの世界戦略に協調することは、強者への追従ではなく、
我が国が「よりよい日本」となるための道である。


(3)日本が独自の国家戦略を追求するのは、戦前の間違いを繰り返すことになるので望ましくない。
ゆえにアメリカの提唱する方針は、多少の留保をつけることはあっても、原則として受け入れる

(4)「平和を愛する諸国民の公正と信義」を信じて、戦争を放棄するという日本の姿勢は、
世界新秩序における国家のあり方を先取りしたものである。
このためアメリカに協調する場合も、安全保障に関して積極的なことはしない。
もっともアメリカとの軍事同盟、ないし軍事的な従属は、日本存立の基本条件として維持し続ける。

============

左翼、ないし革新の論理構造は、こうして次のようになる。

(1)アメリカは自国の権益ばかり追求する態度、いわゆる「帝国主義」に陥っており、
世界新秩序の担い手とはなりえない。
ただし敗戦直後にアメリカが体現した(はずの)理想は、金科玉条のように尊重されるべきである。


(2)ソ連をはじめとする社会主義勢力は、反米を掲げている点では評価できる。
ただしこれらの国が「世界新秩序の担い手」になれるかどうかを判断する基準は、
前項で挙げた「敗戦直後にアメリカが体現した理想」である。

(3)日本(人)は本来、「世界新秩序の担い手」に最もふさわしい存在である。
ただし現実の日本は、アメリカ帝国主義に追従している上、戦後の社会改革も中途半端なままになっているので、望ましい国とみなすことはできない。

============

「ファンタジーの戦後史」が果たした功績は特筆に値する。
この世界観は、以下の6つの点について、理念的な基盤、ないし根拠を提供した。

(1)日本は(本当には)負けていないと信じる根拠
「世界新秩序」の構築という太平洋戦争の目的は、降伏・占領にもかかわらず、戦後の世界で実現しつつあるので

(2)戦後日本の正義を信じる根拠
戦争を放棄し、軍事力を持たないという方針は、「世界新秩序」における国家のあるべき姿を体現したものなので。

(3)うしろめたさを感じることなく、親米路線を取る根拠
アメリカこそは「真の日本」であり、戦後における「世界新秩序」構築の担い手なので

(4)日本の敗北について納得する根拠
戦争目的は良かったが、アメリカほど公平無私になれなかったのがいけなかったと説明がつくので。
つまりこれは、戦前の日本の本質的な正しさを信じつつ、その誤りについて納得する根拠ともいえる。

(5)軍事力をふたたび持つ根拠
第三項で挙げた理由により、アメリカに協調して社会主義国家に対抗するのは正しいことなので。

(6)反米路線を取る根拠
現実のアメリカの行動は、「世界新秩序」構築の担い手にふさわしいものとは言い難いので

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