管直人が福島第一原発にヘリで向かっている途中のこと
やがて、現地が近づいてくる。
「東工大には、原子力の専門家はいないのか」
管は、今度は唐突に意外な質問をした。
一瞬、斑目は、意味をはかりかねた。
一国の総理が、東工大に原子力の専門家がいないのか、と聞くのが不思議だったのだ。
しかし、斑目は、菅首相本人が東工大の出身であったことに思い至る。
「ああ、この人、東工大出身だったかと、そのとき思ったんです。
それで、私は二人の東工大出身者を推薦しました。
一人は、東京電力出身の人でしたが・・・・。
私は”そのほかにも何人もいますよ”と答えました」
この非常時に内閣官房参与として、東工大時代の仲間やOBが、管によって官邸に呼ばれた話はあまりにも有名だ。
極めて愛校心が強いのか、それとも、母校出身者以外は信用できないのか、菅首相の特殊な思考が窺える。
―ー中略ーー
ヘリが着陸して、さあ降りようとした斑目は、ここでむっとすることがあった。
「まず総理だけが降りますから、すぐには降りないでください」
一行は、すぐにはヘリから降りることが許されなかったのだ。
菅首相が現地に視察に来たことを「撮影」するためだった。
原発の危急存亡のさなかに「まず撮影を」という神経に斑目は驚いたのである。
死の淵を見た男 門田隆将 より
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ヘリコプターの中で
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