【送料無料】 誰にも書けなかった戦争の現実 / ポール・ファッセル 【単行本】 |
実際に第二次大戦でヨーロッパ戦線に従軍した著者が自らの体験も踏まえ、戦時中のおかしな点、というか一般に考えられる事象とは異なることを説明している本
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「コブラ」とは1944年7月24日、25日の大爆撃作戦の暗号名で、ノルマンディ海岸サンロー付近の橋頭堡から攻撃する地上軍を援護するのが目的である。
爆撃機1800機で防衛のドイツ軍を壊滅し、その後にアメリカ軍が比較的容易に前進する、という筋書きだ。
ところが7月25日を期して爆撃という予定が、通信上の大きなミスのため多くの飛行機は前日に爆弾投下を始め、しかもその爆撃精度の低さからアメリカ軍に死者25名、負傷者131名を出す始末だった。
ーー中略ーー
ところが翌日はさらにひどかった。
作戦が再開された時、また友軍にやられてはかなわぬとアメリカ軍はひそかに何千ヤードも前線を後退していた。
にもかかわらず、今回の爆撃は更に不正確で、アメリカ軍側に降り注ぐ爆弾によって、前線に出て観察していたレスリー・マクネアー中将を含む111名が死亡、500名近くの負傷者が出た。
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戦況思わしくない1942年、どこそこの部隊が降伏した、あるいはどの船団が撃沈され、
(中略)、アメリカ兵の間で広く信じられていたのが、航空部隊大尉コリン・P・ケリーの物語である。
ケリーは、いかにも戦争初期らいしい「精密爆撃」で日本の戦艦「榛名(はるな)」の主煙突に爆弾を落とした後、他の乗組員に脱出を命じ、しかるのちに浸水の始まった「榛名」に爆撃機ごと体当りしたと言われている
(神風特攻隊が盛んになった頃には、もうこの神話が語られることがなかった。
神風のパイロットたちが狂人でなく英雄とみられることがないように、である)。
実際には、ケリーが損害を与えたのは戦艦ではなく、ほとんど武装もしていない輸送船だったし、それは沈没しなかった。
またケリーが死んだのはその時点ではなく、この後、日本の戦闘機に急襲された際である。
そしてケリーは真っ先に脱出しようとしたものの、脱出口にパラシュートが引っかかって機とともに落ちたことも判明している。
ここまで
どこの国でも誇大宣伝(というか嘘)は日常茶飯事だったことがわかる。
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1936年発行「ウェブスター・カッレジエイト辞典」ではこの言葉(士気)をこう定義している。
「熱意、精神、希望、自信、やる気から生ずる精神状態。兵士の意気」。
これから第二次世界大戦を経て、1951年には改訂版「ウェブスター・ニューカッレジエイト辞典」が出るのだが、そこでの「士気」の定義はひどく長々しい、ほとんど論文化、あるいは詠唱に近いものとなっている。
士気
危険と欠乏の中にあっても強い意志を持って着実に任務を遂行し、自己抑制を常に忘れず、
勇気・信念を保ち続ける心的態度で、自分が正義の側にあり、、成功を疑わぬ信念・大義・企図あるいは指導者への信頼に基づく。
とくに形容詞「高い」によって修飾された場合には、心を一つに共通の目的を達成しようという堅忍不抜の精神を示唆し、とくに熱意と自己犠牲および不撓不屈(ふとうふくつ)の精神をしばしば伴う。
これでは辞書の定義というよりむしろ狂信的愛国主義者の言葉のようだ。
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一日二回、中国政府の記者会見の際にたっぷりと栄養補給している記者たちは、英雄物語をせっせと報じた。
いまや中国は民主主義のために戦っていることになり、信念の人蒋将軍と、アメリカで教育を受けた強気の美女である夫人とは中国そのもののイメージとなった。
そのなかにアメリカ人は、強い意志を持って一つの目的のもとに結束した中国を見た。
この蒋介石の陣営が賄賂や金銭の強要の横行する、腐敗しきった全くの無秩序状態にあり、
そこを毛沢東が次第に崩しつつあったことには実質的に何も触れられていないと言っていいほどだった。
タックマンはさらに続けてこう言う。
いったん定着した印象は揺るぎ難い。
中国空軍は黄浦江停泊中の日本軍艦を爆撃しようとして何週間も失敗を続けた挙句、
ついには誤爆によって同胞に900名の死者を含む2000名の損害を与え、
しかもアメリカの定期船「プレジデント・フーバー」を誤爆しているが、
それでもとくに大きな影響は与えなかった。
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第二次世界大戦次の広告では、広告の勝利と戦争の勝利とが同一視されている。
フロリダ産グレープフルーツの缶詰が大量殺戮に貢献している、といった言い方がそれである。
また雑誌広告では1ページ全部を割いて、ビタミンC入のシトラス・ジュースの効用をうたい、わが爆撃機乗組員はこのビタミンCを飲んで「血色のよいたくましい身体」となり、「昼夜にわたるナチスの襲撃をも一掃してしまう」とぶちあげている。
「ライフ」1943年6月7日号に載ったテキサコ・ガソリンの広告では「『超強力』爆弾・砲弾」用物資の製造に成功した、と誇らしげに語り、ドイツの軍人墓地のイラストを掲げている。
絵をよく見るとそれぞれの十字架には鉤十字の突いた鉄帽がかぶせてあり、しかも十字架の横木はみな「ハイル・ヒトラー」の敬礼をするように片手を上げたスタイルになっている。
コピーには「『ハイル!』と敬礼しています、総統閣下。あなたの死んだ兵士たちが」