山本七平と小室直樹の対談本
対談本はたいがい中身が薄い
ただ、予定調和的な会話でなければ、たまにお互いの会話の相乗効果で思いもよらない考えが出る可能性もあるんだと思う。
===========
小室
西洋の場合であれば、責任者を明確にして、そして決断の主体を特定するというところに民主主義の出発点があるわけでしょう。
日本では全くその逆でして、決断の主体が誰だかわからなくして、決断の内容を分散すると、それが民主主義だと。
ですから西洋の民主主義と全く逆な、(中略)
西洋における多数決というのは、むしろ無限に多くの主張を、多数決という形で一つの主張にしてしまおうと、そういう契機があるわけですね。
山本
はい、意識的に、してしまおうと。
小室
ところが日本の場合には、対立する二つの主張とのバランスといいますか、平衡といいいますか、それが民主主義で・・・。
===============
小室
つまり、山本さんが書かれているように、日本人における責任というのは、
本人が責任を感ずれば、もう責任はなくなる。
山本
ええ、なくなるんです。
だから「私の責任です」といった瞬間に責任はなくなるんです。
そういうのが日本的責任のとり方ですね。
だから「私の責任です」といったからといって追及すると、
「オレの責任だっていってるのになぜ追及するのか」ってことになるでしょう。
=========
1925年7月10日、テネシー州法の「反進化論法」にふれたかどで、
高校教師ジョン・タマス・スコープが起訴されたわけですが、
「反進化論法」とは、1925年3月に州議会を通過したものであり、
テネシー州内のいかなる大学・学校においても、聖書の人類創造に矛盾する進化論を教えてはならない、とするものです。
聖書のみが絶対であるという親交が州内に横溢していなければ、こんな法律ができるわけありません。
それを破ってダーウィンの進化論を講義した彼の裁判がまた、全米を集めててんやわんやの大騒ぎになった。
ファンダメンタリストが続々と法廷に押しかけて、進化論はけしからん、
自分は髪による天地創造を信ずると証言するわけですが、
その1人ウィリアム・ジェニングス・ブライアンなどは、
「自分は哺乳動物であることを断然拒絶する」
などといいだすしまつです。
そして、これがまた、民衆の間では大変な人気。
検事もコチコチのファンダメンタリスト。
が、弁護側も必死です。
アメリカ第一の刑事弁護士として令名の高いクレアランス・ダローが自ら弁護を買ってでて、
全米を沸き返らせるような大論戦になりました。
しかし、判決は有罪。
==============
山本
それがおもしろいんで、この前、牛尾治朗(ウシオ電機会長)さんに、
アメリカで最近、日本的経営を盛んに取り入れてるそうですね、なんていったら
あの人は経営者でしょう?
にやにや笑って、そういう誤解もあるようですと言ってこんな話をしてくれたんですね。
アメリカの経営者がなんで日本がこんなにうまくいくんだと調べた結果が、
これはどうも社長がバーベキュー大会をやって、みんなに食わすかららしい、と。
で、バーベキューをやったというんですよ。
すると、従業員からバーベキューを食って能率上がったんなら、次にどれだけ賃金を上げてくれるかと言われたというんですね。
かれらにしてみりゃ、社長にバーベキューを食わしてもらって、それによって能率が上がったんなら、今度、賃金増えるに決まってるでしょう?
賃金増えなけりゃ、ストやったっていいわけですよ。
結局、変に真似すると変なことが起こるだけでこれはなんか基本が違うんだということが向こうの経営者にわかると言うんですよ。
=============
小室
そこが大事なんです。
資本主義は「搾取」によって成立すると言われるでしょう。
ところが同じく「搾取」といっても、欧米諸国と日本とでは意味を著しく異にします。
西欧資本主義国においては労働者は物になってしまうんです。
山本
うん、なりますね。
ところが日本は搾取の極限形態においては、労働者は資本家の家来になってしまう。
==============
小室
というのは、日米安全保障条約は、ほかの条約と全く異なってまして、
条約の及ぶ範囲は、日本の領土だけ。
艦船には及んでいないんです。
それを日本の専門家は、全然指摘してない。
だから、ソ連が日本のタンカーに停船を命じて、どこかへ連れて行ってしまっても、安保は発動されませんよ。
↧
日本教の社会学 山本七平
↧