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三木武吉、共産党を袖に振る

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三木武吉が反幣原喜重郎内閣を掲げ、野党一致団結して内閣を倒した後、
政権樹立時に共産党がくっついてきてしまったとき

三木
「いろいろあったから、わからなくなってしまった。
焦点を絞ろう。共産党が最も大事だと思う政策は、なんだったかね」
徳田は苛立った。
そんなことはみな承知のはずである。
「天皇制の廃止だ。それから徹底した民主化だ。民衆はそれを要求している」
コメ不足の時代である。
「コメ寄越せ」を要求するデモが皇居前に押しかけ、
「朕(天皇が自らを呼ぶときの言葉だった)はたらふく食っている」という、失礼なプラカードを高く掲げた時代だった。
ーー中略ーー

三木は相変わらずのんびりとした顔である。
「それだよ。そこが問題なんだ」
徳田が何かを言おうとするのを、三木はキセルの先で抑えるようにした。
「まあ、聞きたまえ。
国体護持を主張する日本自由党と天皇制廃止を目標とする共産党とが協力してやっていけるか。
まるで水と油だな」
「だから、どの分野で妥協し合えるかを話し合っているんじゃないか」

「そうだよ、妥協は政治の世界では美徳だ。
是非妥協したい。
賢明なる徳田くんも分かってくれるだろう。
ほかの問題は別として、天皇制廃止には自由党は絶対妥協できない。
この問題は西尾君も三木くんも分かってくれている。
そこでだ、徳田君も妥協して、この問題は自由党の言うとおりということにしてくれないか」

徳田はいきり立って、テーブルを叩いた。
「バカなことを言うな。天皇制廃止では妥協できない。これは共産党の絶対の主張だ。」
「絶対かね」
「絶対だ」
「本当に絶対か」
「本当に絶対だ」
徳田は勝ち誇ったように宣言した。

三木はキセルでテーブルを叩き、コンという音を出した。

止むを得ない。政策協定ならずだ。
共産党とのご縁も今日、ただいま限りだ。
我輩はだ、共産党もまた愛国の士の集合体であると信じて、今日まで譲歩すべきところは譲歩し、諸君に協力を求めてきた。
残念ながら、主張を異にし、政策に重大な食い違いを生じては仕方がない。
縁なき衆生とはこのことだろう。
残念だが、共産党とは袂を分かたざるをえない


徳田が慌てた。
「そんなバカな話があるか。幣原内閣を共闘で倒して、これから連立という時にあって、
共産党を除外するなんてあまりにも勝手すぎるぞ」
「じゃあ、政策の第一項として国体護持に協調するのかな」
「難題を言うな」
「難題じゃない。前々から分かっていることだ。
他の諸党も承知している政策の重要点だ」
三木の顔からのんびりした表情が消えていた。

腹の底に力の入った、太い声で徳田を見据えた。
「どうだ。協調するか」
徳田も声を荒らげた。
「いやだ」
三木はキセルを袋にしまった。
それから西尾と三木武夫の顔を見た。

「万事は、同席の格闘代表諸君も了承したと思う。
共産党の諸君はわれわれと別の道を行く。
では・・・」
三木はひょいと腰を上げた

「これで四者会談はおわりとしよう。
社会党、協同党とは、あらためて別の機会に政策問題を議する会合を持ちたいと思う。
今日はこれにて、散会!」
徳田はもちろん、みながあっけにとられている中を、三木はさっさと席を離れ、肩を振りながら部屋の外に姿を消していったのである。


誠心誠意、嘘をつく 自民党を生んだ男・三木武吉の生涯」 水木楊 より

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