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町工場の底力 橋本久義

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「町工場」の底力―日本は俺達が支えている!/PHP研究所
¥1,500
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日本の中小企業にスポットを当てた本

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労働の大部分というのはそういうものだ。
創造性が入り込む余地がないでもないが、まずは関係ないとしたもんだ。

こんな毎日が面白いわけはない。
不良品がでないとしたら、それこし悲劇だ。
逆説的だが、不良品がときどき出るからこそ、現場は生き生きとするのだ。
活気が出る。燃える。腕が問われる。工夫の余地がある。
考える。克服する。胸を張ってQC大会で発表する。

日本の従業員は変わっている。
社長が、何かの思いつきでフイに工場を見回る。
たまたま最近入った新人を見つけて、
「オイどうだ。もうそろそろ仕事になれたか?まわりの仲間はよくしてくれるか?
どうだ。やってみると現場は案外面白いだろう?」
「どうだ面白いだろう?!」
「どうだ面白いだろう?!」
と三回も繰り返すと、日本の従業員はついつい勢いに負けて
「はい!面白いです」
といってしまうのだ。
しかも、あろうことか、あるまいことか、その単純な、退屈な、
創造性とは無関係と思われる作業に、面白さを見出してしまうのだ。
「おい!今日はいつもよりも不良品が2%少なかったぞ!よかったな」
「先月は機械の稼働時間が200時間だったのが、今月は210時間稼働した。
俺たちが朝十分早く出てきて、機械の手入れをしてから動かすようにしたら、十時間も稼げた。
俺たちが頑張ったからだ。来月はもっと頑張ろう」
と言って喜び合い、面白がって工夫をしあうのだ。
こんな国は日本だけだ。

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日本のベンチャーの中でも、最もたくさんの成功を収めているのは、
「やむをえずベンチャー」型の中小企業である。
つまり本人はベンチャーなんかやるつもりが全くなかったのに、
上司と衝突して冷や飯を食わされていたり、首を切られたり、
会社が潰れて路頭に迷った挙句、「やむをえず」ベンチャーをはじめざるをえなかったというタイプだ。
ーー中略ーー
この「やむをえずベンチャー」型の典型が、高橋百利社長のクライムNCDだろう。
高橋さんは、もともと大手自動車会社の社員であった。
ーー中略ーー
就職して以来プレス加工一筋にやってきた高橋さんが手がけたのは、
NC(数値制御)加工用データを中小企業の代わりに作製する商売だ。

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私がよく知っている「青雲の志ベンチャー」には、
コスモピア社長の田子みどりさんがいる。
田子さんは約十年前、早稲田大学在学時から会社を興した学生ベンチャーの草分けだ。
彼女はその目の付け所が良かった。
最初に始めた仕事内容は、電気製品などのマニュアルをわかりやすくしたものを作ることだった。
だいたい日本の取扱説明書はわかりにくい。
年配の人には、チンプンカンプンだったりすることもしばしばだ。
特にパソコンやオーディオ製品、近頃の多機能テレビなどは、
私でも数回読み返さなないとわからないことがある。
その製品を熟知しているプロがマニュアルを作るため、プロの言葉でしか書かれていないからだ。
そこで彼女は、わかりにくい「プロの日本語」を年配者にもわかりやすい日本語に
”翻訳”するという作業を始めたのである。
これが当たったというわけだ。
今では人材派遣や、イベントの企画等に手を広げ、全従業員が女性という、
うらやましいような会社をやっている。
全従業員が女性だから、子供のPTAや、運動会などの際も、仲間同士で融通をつけあって仲良くやっている。

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日本企業、とりわけ日本の町工場の強さの秘密は、
職人さん一人ひとりの能力の確かさであり、
その能力を少しずつ引き上げていくシステムに有る
のだ。
実際、ふつうの人の能力を最大限引き出していくシステムなど、日本以外のどの国にもなく、
日本、そして日本の町工場独特のシステムといっていい。

私は、日本のいろいろなソフトウェアのうちで、何がすごいといって、
普通の人を完全に使い切るノウハウくらいすごいものはないと思う。
アメリカもヨーロッパも、効率100%の優秀な人間を使うノウハウは持っている。
「欧米のエリートの働きぶりは、日本以上だ」という証言は、
効率100%の人間が働いている状態を指す。

ところで、世の中は効率100%の人間ばかりではない。
なまけもので、不勉強で、卑怯者で、才能もたいしたことない普通の人が大部分を占めている。
この人達がミスをし、作業を忘れる。不良品を作る。
アメリカでは、ミスがあった時「怒る」システムはあるが、
やる気を出させ、ミスをなくすよう自主的に努力させる手段がない。
そのようなシステムが機能している国は、世界中でおそらく日本だけだ。


効率30%の人間は、アメリカではそれで用が足りるところ(判断を要しない単純作業)で、
しゃにむに働かされて壊れる寸前であるか、
油の切れた機械のように10%くらいの低い効率でのろのろと動いているかどっちかだ。

日本は、その30%の人間も70%の人間も、
みんなで手を取り合って頑張ってやっていこうとする。
効率30%の人が失敗すれば、「ダメじゃないか、バカが!」と課長は怒鳴るが、
夜ともなればちょっと肩をたたいて、「おぅ、ちょっと一杯飲んで帰ろうか」。
そして酒場では「昼はみんなの手前あんなこと言ったけれども、
君もわかっているだろうが、あれは他のみんなの教育のためなんだよ。
会社も君に期待すればこそ、ああ言ったんだよ」と、見え透いたいいわけだ。

しかし自分のことを気にされて、しかも誉められて悪い気がする人はいないから機嫌は直ってしまう。
この後は、酔っぱらいのわめき声とカラオケの大音響にかき消されて
わけがわからなくなるのであるが、翌日は、
その効率30%ぐらいの人が発奮して35%ぐらいで働き出す。
35%ぐらいの人が職場で怒られたり誉められたりするうちに、
何かの機会に発奮して45%で働き出す。
いつか50%になり、60%になり70%になっていくのである。

特に大切だと思うのは、その効率70%の人が、
後から入ってくる効率30%の人たちを70%にまで育て上げてしまうことだ。
みんながどんどん再生産をして、企業の屋台骨を支える中核技術者を大量に育てていくのだ。
このシステムは、他国には見られない。



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