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新・帝国主義の時代 右巻 佐藤優

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新・帝国主義の時代 - 右巻 日本の針路篇/中央公論新社
¥1,995
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個人的には左巻の方が面白い
右巻は、北方領土、尖閣諸島などを例に周辺諸国との外交を主に論じている。

佐藤優さんは、母親が沖縄出身なのだそうだ。
そのことをロシア人の学者アルチューノフと話している。
アルチューノフ
「(略)佐藤さんは、複合アイデンティティーを持っているので、
日本人、沖縄人の立場からこの問題について想像することができますね」
佐藤
「想像出来ます。
特に私の母の出身地である久米島で、日本海軍陸戦隊による住民虐殺が起きています。
子供の頃から母にその話を聞いているので、
それが私の思考に影響を与えていることは間違いありません」
アルチューノフ
「同時に佐藤さんは外交官だから、
当時の日本政府や軍の立場を追体験することもできるでしょう」
佐藤
「できます」
アルチューノフ
「その二つの立場は交わりますか」
佐藤
恐らく交わらないと思います
アルチューノフ
「それと同じように多くの民族紛争で、対立する双方の立場は交わらないのです。
そういうときは無理に問題を解決しようとせずに棲み分けることが重要です
佐藤
「棲み分け?」
アルチューノフ
「そうです。
少数民族や亜民族は、自らの故郷では他の民族よりも
ほんの少しだけ優遇される制度を作ることです。
それがソ連体制の民族共和国、自治共和国、自治州、自治管区の基本的発想です。

この発想は間違っていない。」

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現在の日本のシステムにおいて、国家が「日本国家と日本人同胞のために死ね」
という命令を出すことはできない。
ただし、命令を出すことはできなくても、国家が「死んでくれ」と
自衛官や警察官に「お願い」することはできる。

あくまでも「お願い」だから、自衛官や警察官がそれを拒否することもできる。
福島第一原発の放水作業にあたっては、自衛官、警察官、消防士が
日本国家と日本人同胞、そして日本に滞在する外国人のために、
文字通り生命を賭して職務を遂行した。
日本人の愛国心はこのような形で発露される。
この自衛官、警察官、消防士を動かす「何か」を探求することが
思想や哲学を扱う有識者の課題だ。

東電(協力会社を含む)は民間企業なので、社員に本来、無限責任は想定されていない。
福島第一原発事故やそれに伴う計画停電に関して、
政治家やマスメディアは東電を厳しく批判した。
ーー中略ーー
個人主義と生命至上主義に基づく現下日本の社会システムにおいて、
個人の職業選択の自由が認められているので、
このような危険な職場から離脱する権利を東電の原子力専門家は持っている。

「こんな危険な場所では働けません。
私はこの瞬間に会社をやめさせていただきます」
と原子力専門家が申し出た場合、会社も国家もそれを阻止することはできない。
ただし、権利は義務ではないので、放棄することができる。
この瞬間において、東電の原子力専門家が無限責任を負って、職務を遂行したのである。
それだけではない。
自ら志願して、福島第一原発に赴いた人々がいる。


===================

佐藤
「(2011年)6月2日の内閣不信任案をめぐるドタバタ劇の結果、
民主主義が機能不全に陥る危険が現実の問題になっている。
それに対するメディアの危機意識があまりに薄い。
永田町(政界)には毒ガスが流れている。
政治部記者もその毒ガスを吸って、心身に変調を来しているとしか思えない」
A氏
「具体的にどこでそれをいちばんつよく感じるか」
佐藤
『議院内閣制では民意を反映することができない。
首相公選制を導入すべきだ。独裁が必要だ』
という類の某知事の発言について、どの新聞も批判的コメントを加えずに
ストレートニュースとして報じていたことだ。

独裁政治を肯定するような意見が、そのまま全国紙に掲載されて、
国民に『独裁も選択肢の一つだ』というような意識が刷り込まれていくことが恐ろしい。
僕は時代がほんとうに危機的と思うから、あえてこの知事の固有名詞を出さないで論評している。」
ーー中略ーー
近代民主主義の歴史において、議会が機能不全に陥ることは、決して珍しくない。
ここで、1925年に当時36歳の青年政治家が上辞した著作から、
議会の機能不全について手厳しく批判した部分を引用する。

<先ず第一に、そしてなにより多くわたしを考えこませたことは、
個々人がおよそ責任というものを明らかに欠いている、ということであった。
議会がなにか決議する。
その結果が非常にとんでもないことであっても、だれもそれに対して責任を取らず、
だれも責任を問われることがない。

一体破綻した後でも、罪のある政府が総辞職すれば、
これでなんらかの責任をとったというのか?
あるいは連立を変更したり、そればかりでなく議会を解散すればそれでいいのか?
一体全体、多数の優柔不断の人間にいつか責任を負わすことができるだろうか?
すべての責任感というものは、人に結びついていないのだろうか?>

ーー中略ーー
ちなみにこの記述は、後にドイツ第三帝国相当になるアドルフ・ヒトラーによるものだ
(引用はアドルフ・ヒトラー『わが闘争(上)』角川文庫、1973年、124~125ページ)


議会制民主主義のもとで、政治家が国民の平均的水準から著しく乖離することはない。
ヒトラーは、
<多数はいつも愚鈍の代表であるばかりでなく、ひきょうの代表でもある。
百人のバカものからは実に一人の賢人も生まれないが、
同様に百人のひきょうものからは、一つの豪胆な決断も出てこない。>
(同129ページ)
ーー中略ーー
<個々の指導者の責任が軽くなればなるほど、自分はあわれむべき程度のくせに、
人なみに国民に対して不朽の努力を捧げるために招かれている、
と感じているものの数もだんだんと多くなっている。
実際かれらはまったく、いつになったら自分の順番がくるか待ちきれないのである。
かれらは長い縦隊でならび、
遺憾の念で苦しみながら自分たちの前で待っているものの数を数え、
人間的な考慮によってかれらが車に乗せられる次官をほとんど数えつくすのだ。
だからかれらは自分たちの目の前にちらついている役職の更迭を待ち焦がれ、
そして彼らの順番を早くしてくれるどんなスキャンダルでもありがたがる。
けれどもだれかが自分の占めている地位を二度と譲ろうとしないときは、
かれらはこれをほとんど共通の連帯責任という神聖な協定の違反と感ずる。
そうしたらかれらはたちが悪くなり、この恥知らずがついに失脚し、
その暖まった席をふたたび一般に用立てるまでおとなしくしていない。
そのためかれはすぐにはこの地位に戻ることができない。
というのはこういう無類の徒がそのポストを放棄するように強制されるやいなや、
他の者が叫び声を上げたり悪口雑言をはいたりして、かれらをそこから離しておかない限り、
かれらはすぐにふたたび待っているものの一般の列にすべりこもうとするからである。
(同129から130ページ)

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「日本維新の会」に属する国会議員には、三つのカテゴリーの政治エリートがいる。
第一は、旧体制のエリートだ。
土木工事や箱物作りを公共事業で行い、権力を金に換えるノウハウに長けた政治家だ。
ーー中略ーー
第二は、偶然のエリートだ
小選挙区制の結果、本人の資質や努力と関係なく当選する代議士がいる。
この人々は、偶然、国権の最高機関の一員となったが、
国家を運営するノウハウが身についていないのみならず、
そもそも政治家としての基礎体力がないので、政策を理解することができない。
従って、政治エリートとして成長しない。
しかし、名誉欲と金銭欲が肥大しているので、
国会議員としての特権を私益のために最大限に活用する。
小泉チルドレン、小沢ガールズと呼ばれた国会議員の大多数が、偶然のエリートだった。
偶然のエリートは、一時的にマスメディアの注目を浴びても、選挙を数回経れば淘汰されていく。
第三は、未来のエリートだ。
表面上、第二の偶然のエリートと見分けがつきにくい。
しかし、国会議員になってから、研鑽を積み、着実に成長している30代から40代の政治家だ。
こういう政治家は、選挙区をこまめに歩くとともに、実によく本を読み、専門家の話を聞く。

ただし、成長途上にあるので、まだあまり力がない。
ーー中略ーー
このような未来のエリートが実際に権力を掌握することができるようになるまでには、
少なくとも2から3回、総選挙を経なくてはならないと筆者は考えている。
職業政治家を忍耐強く育てていくことも国民の義務と思う。

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2009年8月18日朝日新聞朝刊
政府と国際機関の努力で減ってきたとはいえ、
アフガンはケシの栽培面積で世界の約8割、アヘンの生産量では約9割を占める。
十分な灌漑設備がないため、干ばつに強いケシが
貧しい農民の生活をさあ得てきたのが実情だ。
デュラドさんも「また干ばつに襲われ、
政府が十分に面倒を見てくれなかったらすぐにケシに戻すよ」と言い切った。
反政府武装勢力タリバーンの勢力が強い南部の州では今もケシ栽培が盛んだ。
特に多いのが、タリバーンと駐留外国軍の激しい戦闘が続くヘルマンド州。
治安は悪化する一方で、灌漑施設の手入れもできない。
電動ポンプで畑に水をやるが、その費用に見合うのはケシだけという。
ナデラリ地区のヤクーブさん(40)は
「政府は小麦の種と肥料を1袋ずつくれたが、全く足りない。
生きるためにはケシしかない」と話した。
ケシからできるアヘンやヘロインは密売業者を通じて国内外に売りさばかれ、
タリバーンの支配地域では武装闘争の資金源になっているとされるほか、
中央政界や地方の有力者も「麻薬利権」への関与が指摘されている。
昨年、南部カンダハル州の議会議長を務めるカルザイ大統領の弟が
麻薬ビジネスに関わっているとの疑惑が報じられ、大統領は否定に追われた。
大統領はまた、7月初旬に選挙対策責任者のおいを含む
5人のヘロイン密輸業者に恩赦を実施し、米国務省から
「政府の麻薬対策を台無しにした」と非難された。

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菅直人氏は2009年9月に政権交代が実現し、副総理に就任して以後、
沖縄出身の嘉納昌吉参議院議員(民主党)に対してこう述べている

政権をとった時期に菅直人と会ったんですよ。
沖縄問題よろしくねって言ったら、彼は
「沖縄問題は重くてどうしようもない。基地問題はどうにもならない。
もうタッチしたくない」と言うんです。
内部で猛烈な戦いがあったんでしょう。
それで最後に管が何て言ったと思う?
「もう沖縄は独立したほうがいいよ」って。
すごいと思わない?そういうふうになってしまうんですよ。
日米同盟派に勝てないんでしょう。
大変なことだよ。
副総理が沖縄は独立したほうがいいよって言ったんだ。
嘉納昌吉「沖縄の自己決定権 地球の涙に虹がかかるまで」 (194-195ページ)より

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実は、1998年に国家院(上院)において、
9月3日を「軍国主義日本に対する勝利の日」とする法案が採択されたことがある。
このときは、エリツィン大統領が拒否権を発動し、廃案になった。
この背後で、モスクワの日本大使館と東京の外務本省が
クレムリンに対して猛烈なロビー活動をかけた。
筆者は当時、外務本省国際情報局分析第一課に勤務していたが、
このロビー活動のために何度もモスクワに出張した。
ロシア外務省の対日担当部局、大統領府の一部側近が日本側の主張に賛同し、
エリツィン大統領が拒否権を行使するように働きかけた。
エリツィン大統領は、内政、外交の双方においてスターリン主義の「負の遺産」
から脱却することがロシアの国益に合致すると考えていた。
それと同時に「東からのユーラシア外交」を展開し、
ロシアをアジア・太平洋地域に誘っている日本との関係を、
「軍国主義日本に対する勝利の日」という日本人の国民感情を刺激する記念日
を制定することで悪化させることがロシアの国益に反するという計算を
エリツィン大統領の側近たちがしたのである。

===============

イワン(仮)
「プーチンはあの小僧にうんざりしている。俺もうんざりだ」と吐き捨てるようにいった。
佐藤
「小僧というのは、もしかするとメドベージェフ大統領のことか」
イワン
「もしかするとではなく、間違いなくメドベージェフのことだ」
佐藤
「大統領を小僧なんて言っていいのか」
イワン
「あいつに関しては構わない。小僧は小僧だ。
あんな奴がロシアの大統領をつとめていると国家が崩壊する。
幸い、現在は原油と天然ガスの価格が高いから、
どんな間抜けが大統領でも何とか国家運営ができる。

しかし、いつまでもこの状況が続くわけではない。
国家体制の強化をしなくては、帝国主義的傾向を強める国際社会で
ロシアが生き残ることができなくなってしまう。
メドベージェフが再選されるとロシア国家が中枢から崩壊してしまう」
佐藤
「具体的にメドベージェフの国家運営のどこに問題があるのか」
イワン
「どこもかしこもすべてだ」
佐藤
「それじゃ問題がよくわからない。真理は具体的だ。わかりやすく話してくれ。」
イワン
「メドベージェフは官僚機構を信用していない。
そして、自分のことを全知全能と思っている。
部下に仕事を任せることができない。
細かいことにまで口を出してくる。
それから、自分のお気に入りを大統領府に顧問として招き、側近政治を行なっている。
この側近たちがすぐに声を荒げて官僚を威圧する。」
佐藤
「なんか今の話を聞いていると菅直人総理のようじゃないか」
イワン
「日本で菅総理の話を聞いていると、メドベージェフ大統領に正確がとてもよく似ているように思う」
佐藤
「それだからお互いに磁石のN極とN極のように反発しているのだろう」

===================

2012年3月4日、勝利宣言を行った時、プーチンの瞳から涙がこぼれた。
プーチンは、感情を表に出さない訓練がよくできた政治家だ。
公衆の面前で涙をながすことは珍しい。
それくらい、今回の当選がうれしかったのである。
プーチンが、勝利宣言の演説を行なっている時に、
筆者はプーチン選挙対策本部の某幹部と電話でこんなやりとりをした
佐藤
「第一回投票で6割以上とれたじゃないか。圧勝だね」
友人
「圧勝じゃないよ。苦しい勝利だったがなんとかなるというのが実態だ」
佐藤
「もっとも、対外的には圧勝だという発表をするわけだろう」
友人
「もちろんだ。しかし、実際は国家機関を総動員しても、
政権側に引き寄せることができるのは6割強にすぎないということが明らかになった。
この現実を踏まえて、今後の政治戦略を組み立てなければならない。
マサルも知っているように、プーチンは国民から消極的に支持されているに過ぎない」

ロシアの民主主義観は、欧米や日本とは異なる。
そもそも普通のロシア人は政治を悪と考えている。
ロシアの建国神話では、スラブ人(ロシア人の祖先)が
自らを統治してくれる指導者を外部から求めて、
ワリャーグ人(スカンジナビア人)から王を招いたということになっている。
支配者は、民衆の外部にいる存在なのだ。
従って、現在もロシア人には、「われわれの代表を政界に送り出す」
という意識が希薄なのである。
政治は「あの人達」の事柄で、選挙では「悪い候補」「うんと悪い候補」「とんでもない候補」
が上から降ってきて、そのうち「うんと悪い候補」と「とんでもない候補」を排除するのが、
民主主義と考えている。

===============

米国の場合、自由、民主主義という建国の理念がある。
さらにその背後には、米国の宗教社会学者ロバート・ベラーが強調する
「市民宗教(Civil Religion)がある。
米国の大統領は、「神に誓って」という言葉を口にするが、
「キリストに誓って」とは言わない。
ここに米国の国家統合原理である市民宗教を解く鍵がある。
キリスト教徒とユダヤ教徒を統合することができる緩やかな神
という物語が米国にとって必要なのだ。

正統派のキリスト教は、イエス・キリストは「真の神で、真の人」という
451年の教会会議で採択された「カルケドン信条」の立場をとる。
ただし、キリスト教にはイエス・キリストを「真の神」であるとは考えず、
偉大な人間であったと考える宗派もある。
例えば、近代になって生まれたユニテリアン派だ。
この派の教義が、米国の市民宗教にもっとも近い。


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