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イスラーム国の衝撃 池内恵

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以前「イスラム国 テロリストが国家をつくる時」を読んだが、それよりも数段よい。

ちょっと文章がとっつきにくいが、とても詳しいです。

アル=カーイダとは「基地」を表すアラビア語なのだそうです。
こっちのほうが名前としてカッコ悪く聞こえるので、報道も「基地」にしてもいいかもしれませんね。

自称イスラム国の前身、イラクの聖戦アル=カーイダの指導者だったアルカーウィに、日本人はかなり前に殺されていることを初めて知りました。
2004年10月31日、香田証生さんが殺されている。

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イスラーム主義には、歴史的に二種類の潮流がある。
一方に、選挙や議会といった既存制度の枠内での政治参加を通じた漸進的な改革によって、
イスラーム的な社会と統治の実現を図る、制度内での政治参加と改革を目指す潮流
がある。
一般にこれは「穏健派」と呼ばれる。
エジプトのムスリム同胞団やチュニジアのナハダ党は、ある時期から、この制度内改革路線を採用してきた。
ーー中略ーー
他方には、制度内での政治参加を否定する制度外武装闘争派の潮流がある。
近代の西洋起源の選挙や議会制度といった政治体制は、そもそもイスラーム教に反するがゆえに違法であると制度外武装闘争派は主張する。
また、政治参加の制度があったとしても、恣意的な運用や非合理的な規則によって反体制派は排除され、権力を掌握することはありえないのだから、既存制度の内側での政治参加は無意味とも断じる。
一般にこれは「過激派」と呼ばれる。

ここまで
簡単にいえば、極右や極左を過激派と呼ぶということでしょう。

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サージ(増派による圧倒的な軍事力と、「イラクの息子」の取り込みなど、軍事的圧力と政治的融和策の両面を駆使)の成果を踏まえてオバマ政権が米軍の完全撤退を2011年末に完了すると、
「イラク・イスラーム国」は、またも息を吹き返した。
その背景には、マーリキー首相の失政がある。
米軍の全面撤退により、米国の圧力を気にする必要のなくなったマーリキー首相は、
「イラク覚醒国民評議会」などとの約束を反故にし、その傘下の民兵たちへの給与支払いを止めた。
「イラクの息子」を野に放ってしまったのである。
また、反政府勢力だけでなく、政権内のスンナ派勢力にも、テロ支援の嫌疑をかけ、訴追や放逐を行った。
阻害され迫害されたと感じたスンナ派勢力の抱く、米軍の増派以前にも増した敵意と憎悪に、
イラク政府とその軍部隊は正面から向き合わねばならなくなった。

かつては米国や多国籍軍に兵を送る欧米やその同盟国の人員に対して向けられていたテロが、
イラク政府とその人員に向けられるようになったのである。

「イラク・イスラーム国」は、野に放たれた「イラクの息子」を吸収しただけではない。
旧フセイン政権の軍・諜報機関の関係者を指導部に多く含むようになっていった。


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自称イスラーム国の外国人部隊の出身地

フランス700人、英国400人もいます。



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日本には、イスラーム世界とも欧米とも異なる独自の「イスラーム」認識があり、
権威的にこの問題を論じる専門家や、日本の対外関係や近代世界の中での位置をめぐって活発な議論を展開する思想家・知識人の言説を通じて、社会や政治に独特の影響を与えている。
「先鋭的」であることに存在意義を見出す論者は、しばしば「イスラーム」を理想化し、
それを「アメリカ中心のグローバリズム」への正当な対抗勢力として、
あるいは現代社会の解決不能な諸問題を、一言で解決する魔術的なパワーを秘めたものとして、
テキストや現実の事象を踏まえずに用いられているのである。

ーー中略ーー
このような現状全否定のための思想として、かつては左翼イデオロギーがあった。
新興宗教が勢いを持った時代もあった。
しかし現在、それらの勢力の影響は下火になった。
そこで、グローバルな反欧米運動としてのイスラーム教過激派の主張に現状超越論者たちの期待が集まっている。
欧米コンプレックス、破壊・終末願望といった雑多なネガティブな感情のはけ口は、常に探し求められてきたが、現代では、それが「イスラーム」になりかけているのだろう。



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