今回のシリーズで西ローマ帝国が滅亡し、ローマがローマ帝国のものでなくなるわけで、
東ローマ帝国がその後もしばらく残るが、実質この段階でローマ帝国というものはなくなったといっていい。
上巻では、西ローマ帝国の実質的終焉、
ゲルマン民族によるローマ掠奪まで
中巻では、度重なるローマ掠奪、皇帝廃位による西ローマ帝国の消滅まで
下巻では、その後の東ローマ帝国による西ローマ帝国領土回復への動きとその失敗までを著している。
このシリーズで象徴的なのは、ローマ市民の対応です。
彼らは自らの市の防衛を自らで行おうという意志は全く無く、
ローマを占領してきた人を自らの市を防衛してくれる人と無防備に信頼し、
最終的に餓死・殺戮による悲劇を生んでいる。
そして、真に国を思う将軍を、宮廷の嫉妬・誹謗・中傷によって足を引っ張り処刑している様はかなり痛々しい。
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紀元410年の夏に起こった「ローマの劫掠」は、西はブリタニアから東はパレスティーナに至るローマ世界を震駭させたが、それは、当時の人々がこのことを、
ローマ帝国の事実上の崩壊と感じ取ったからである。
「劫掠」直後に皇帝ホノリウスは、西ローマ帝国の全域に駐在している総督と軍の指揮官と法務官の全員にあてて、次の書簡を送ったのだった。
「アラリックとその配下の蛮族は、首都ローマの輝かしい記念碑を焼き払っただけでなく、
ローマに住む人々から何もかも奪うという蛮行まで行った。
ゆえに、属州からの要請に応ずる力は、経済的にも軍事的にも、帝国にはもはやない。
これ以降は、属州が頼りにできるのは自分たちのみであり、あなた方には、それを充分に果たせる力があると信じている」
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フン族のアッティラがローマに侵略しに来た際、ローマはアッティラに多額のお金を払い、帰ってもらっている。
だがこのときも、伝説が生まれたのだ。
ただし、民間の伝承が伝説として定着したというより、はじめからキリスト教会が意図的に広めた宣伝であった。
聖ペテロと聖パウロの助けで勇気を奮い起こした司教レオが、アッティラに向かって、
暴虐を非難しそれからの脱却と慈悲の大切さを説き、レオのこの熱弁にアッティラが説得され、
それでイタリアから去って行った、というのがそれである。
もちろんこのストーリーでは、カネを払ったことには一行もふれていない。
ローマ人の物語〈41〉ローマ世界の終焉〈上〉 (新潮文庫)/新潮社
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ローマ人の物語 ローマ世界の終焉 塩野七生
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