明治元年に来日したオーストリア人の来日記
そろそろこの時期の外国人の来日記は飽きてきました。
日本人は自然が好きだ。
ヨーロッパでは美的感覚は教育によって育み形成することが必要である。
ヨーロッパの農民たちの話すことといえば、畑の肥沃さとか、水車を動かす水量の豊かさとか、
森の値打ちとかであって、土地の絵画的な魅力についてなど話題にもしない。
彼らはそうしたものに対してまったく鈍感で、彼らの感じるものといったら
漠然とした満足感に過ぎず、それすらほとんど理解する能がない有り様なのである。
ところが日本の農民はそうではない。
日本の農民にあっては、美的感覚は生まれつきのものなのだ。
たぶん日本の農民には美的感覚を育む余裕がヨーロッパの農民よりもあるのだろう。
というのも日本の農民はヨーロッパの農民ほど仕事に打ちひしがれてはいないからだ。
肥沃な土壌と雨と大要が仕事を半分してくれるのだから、
あとはそっくりそのまま時間が残ることになる。
この時間を、日本の農民は小屋の戸口に寝そべり、煙管をくゆらせ、
自分の娘達の歌声に耳を傾けながら、どこを見ても美しい周囲の風景に
視線をさまよわせるのである。
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オーストリア外交官の明治維新 アレクサンダー・F・ヒューブナー
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