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危機の20年 E・H・カー

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危機の二十年――理想と現実 (岩波文庫)/岩波書店
¥1,260
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この本は第二次世界大戦中の1939年に出版された本
この20年とは、第一次大戦から第二次大戦までの間のだいたいの年数を言っている。

実際のテーマは、副題にあるように「理想と現実」であり、
理想主義者と現実主義者の対比を行い、理想主義者の偽善を暴くというもの

この本では、理想主義者(ユートピア)=革新、現実主義者(リアリズム)=保守となっているが、
少なくとも日本では保守がすべて現実主義者かというとそれはないと考える。
革新がすべて理想主義者であることは間違いない。

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近代において、知識人はあらゆるユートピア運動の指導者であった。
ユートピアニズムが政治発展に尽くしたその功績は、主として知識人のものである。
しかしユートピアニズム特有の弱点はまた、政治的知識人特有の弱点でもある。
彼らは現に存在するリアリティを理解できないだけでなく、彼ら自身の基準がどのように現実の中に根差しているのかを理解できないのである。

ドイツ政治における知識人の役割について、マイネッケはこう書いている。
「知識人は彼らの政治的願望に、純潔と独立の精神、哲学的理想主義の精神、
さらには利害の具体的な作用を超越した高尚の精神を注入した・・・
しかし彼らは、実際の国家生活につきまとう現実主義的な利害感覚を欠いていたがために、
崇高の極みから放縦・気まぐれへと急速に堕落していったのである」

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対外政策に対するいろいろな態度についてとくに明確に述べているのは
ネヴィル・チェンバレン(イギリスの元首相、融和策をとって第二次大戦を拡大させたことでも有名)
だが、彼がある労働党議員の批判にこたえて下院で行った演説はまさにそうであった。


貴殿にとって対外政策とは何であろうか。
貴殿が健全で一般的な命題を断固主張するのは結構なことだ。
貴殿が、自らの対外政策は平和を維持することだと述べるのもまた許されよう。
貴殿は、自身の対外政策とはイギリスの利益を守ることだと表明することもできよう。
そして、取り立てていうまでもないのだが、貴殿からすれば、
対外政策とは、正と悪を区別することができる限り、
悪に対抗して正のために自らの影響力を行使することだ、と説くこともできよう。
貴殿がこれらすべてを一般原則であると主張することは可能だ。
しかし、それは政策ではない。
確かにもし貴殿が政策を手に入れるのであれば、貴殿は個々の状況を受け入れて、
しかもいかなる作為・不作為がこれら個々の状況に照らして適切であるかを考えなければならない。

私が政策として申しているのは、このことである。
全く明らかなことだが、国際関係における状況と条件は日々絶えず変化しているのだから、
もし貴殿がその政策を、生起するあらゆる状況に適合させたいのなら、貴殿はその政策を決定的、最終的なものとして述べ立ててはいけないのである。


左派が知的に優れていることは、ほとんど疑う余地はない。
左派だけが政治行動の原理を考えだし、政治家が目指す理想を導き出す。
しかし左派は、現実と密接にかかわることで得られる実際の経験を持っていない。
大いに不幸なことであったが、1919年以後のイギリスでは、
左派はごくわずかな期間しか政権についていなかったがために、
以後の実際をほとんど経験せず、ますます純理論政党になっていった。
一方右派は野党の立場に置かれたことがほとんどなく、
したがって完成された理論と欠陥のある現実とを対決させようとはしなかった。

ここまで
残念ながら日本の左派はここまでにも達していないし、右派も現実主義とは遠い

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ビスマルクは、1857年フランス外相ヴァレフスキーが彼に述べた言葉、
すなわち外交官の仕事とは自国の利益を普遍的な正義の言葉で覆い隠すことである
。という寸言を記録している。

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リアリストは、ユートピアの防壁の裂け目にただ漫然と嫌がらせの攻撃をするだけであってはならない。
リアリストの仕事は、ユートピア思想を作り上げている構成要素がいかにうわべだけのものであるかを暴露して、非現実的なこの思想の全構造を打ち破ることである。
政策や行動を判断するには不変の絶対基準があるのだというユートピア的な考え方を、
リアリストは思想の相対性という武器を使って破壊しなければならないのである。

ーー中略ーー
ダイシーが述べているように、
「人間は、自分に都合のいい取り決めが他人の利益にもなるのだということを簡単に信じてしまう」
のである。
ーー中略ーー
ユートピアンは、彼がいかに熱心に絶対基準を打ち立てようとも、
その絶対基準に従って世界の利益を自らの利益に大きく優先させるのが自国の義務だ、
などとはいわない。
何故ならこれは、全体の利益と個別の利益が自然のうちに一致するという彼の理論に矛盾するからである。
ユートピアンは、世界にとって最善であることは自国にとっても最善であると主張し、
次にこれを裏返して、自国にとって最善であることは世界にとっても最善であると読む

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国際分野における政治権力
(a)軍事力
(b)経済力
(c)意見を支配する力

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軍事的手段が最高度に重要であるのはなぜか。
その理由は、国際政治における権力の最後の手段が戦争である、という事実にある。
国家のあらゆる行動は、その権力の側面からすれば、戦争
―ーすなわち望ましい手段としてではなく、結局のところどうしても使わなければならない手段としての戦争ーー
に向けられている。
クラウゼヴィッツの「戦争は他の手段による政治的関係の継続に他ならない」
という有名な警句は、レーニンやコミンテルンによって繰り返し支持されてきた。
「その目的において戦う意思を持たない同盟は、無意味であり使い物にならない」
とは、ヒトラーの言葉だが、これも全く同じことである。
ホートリー氏(イギリスの経済学者)は、同様の言葉で、外交を「潜在的戦争」と定義する。

確かにこれらの発言は、半面の真理でしかない。
しかし、こういった言葉は真実を語っているのだ、と認めることこそが重要なのである。
革命が国内政治の背後に潜んでいるのと同じように、
戦争は国際政治の背後に潜んでいる。

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経済の力は、つねに政治権力の手段となってきた。
ただ、それが軍事的手段と結びつくならば、ということである。
最も原始的な戦争だけが、経済的要因とは全く無関係なのである。
最も富裕な君主や都市国家こそ、最大かつ最強の傭兵軍を雇うことができた。
したがってどんな政府も、富を獲得するための政策を追求せざるをえなかった。
文明の進歩はみな経済発展と堅く結びついてきたので、
近代史を通じて軍事力と経済力の関係がますます密接になっている
という事実を目にしても、われわれとしては何ら驚くことはないのである。

===============

意見を支配する力は、権力の第三の形である。
「俺たちには船も兵士も、そして金もある」と歌った「ジンゴー派は、
政治権力の三つの本質的要素―ー軍備、尽力、経済力ーーを正確に理解していた。

―ー中略ーー

意見を支配する力が最近ますます重要になってきた明白な理由は、
政治の基盤が拡大したことにある。
つまり政治の基盤の拡大によって、
政治的に重要な意見を持つ人々の数が途方もなく増大したということである。

ーー中略ーー
ヒトラーの言によれば、
「科学的説明」はインテリに向けてなされる。
しかし宣伝という現代的武器は、大衆に向けてなされるのである。


キリスト教は、大衆的人気を得た史上最初の偉大な運動であったといってよい。
大量の意見を支配する潜在力を最初に見抜き、これを発展させたのがカトリック教会であった。

===============

フランス革命の思想、自由貿易、1848年における最初の共産主義、
あるいは1917年に復活した共産主義、シオニズム、国際連盟の思想などはみな、
一見したところ(これらの思想が意図していたように)権力から引き離され、
国際的宣伝によって育てられた国際的意見の実例である。
しかしよく考えてみれば、この第一印象には限界がある。
これらの思想はいずれも、それらが国家的色彩を帯び国家権力によって支えられるまでは、
どれほど政治的効力を発揮したであろうか。





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