途上国に見られる貧困に真摯に向き合った良書
目を背けたくなるようなこと、笑ってしまうこと、など様々であり、とても良かった。
テレビやネットでよく見る「かわいそう」に終始した記事・番組を鵜呑みにしてはいけないな、と思いました。
そして対処は単純ではないことが書かれている。
ちなみにタイトルの【絶対】は、
絶対**だよ!の絶対ではなく、
相対的に対する絶対的、という意味の絶対です。
よって、日本国内の貧富の差とかそういうレベルではないです。
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スラムの女性は実に多産です。
子供が労働力になる農村ほどではありませんが、5,6人は当たり前のように産みますね。
避妊の知識や道具が手に入らないということもあるのですが、
忘れてはならないこととしてパートナーがかなりの頻度で変わることもあるでしょう。
スラムの人は再婚率が非常に高いですし、浮気や重婚といった話もそこらへんに転がっています。
貞操観念というのは生まれ育った環境によって大きく左右されます。
誤解を承知で申しますと、スラムで育った人はきちんとした教育も受けていませんし、
子供の頃からレイプなどの脅威にさらされていますし、
日常的に肉親の性というものを見て育っています。
少なくとも私たち日本人の貞操観念とは相当の開きがあるのです
(逆にスラムであっても日本よりずっと厳しいところもあります)
それゆえ、女性は結婚するたびに子供を孕むことになるために、
種違い、腹違いの義理兄弟がとても多くなります
そういう意味では、彼らははじめから血の繋がりをそこまで重視せず、
「どこかで血が繋がっていればみんな兄弟」といった感覚を持っています。
ですから、スラムの住人が横にいる子を指して「兄弟だよ」と言っても、
かなりの高確率で種違い、腹違いの兄弟なのです。
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「世界子供白書2008」(UNICEF)
5才未満児死亡率(1000人あたり)
日本 4人
米国 8人
中国 24人
アフガニスタン 257人
シエラレオネ 270人
生後から28日以内の乳児の年間死亡者数(1000人あたり)
日本 2人
米国 5人
中国 21人
シエラレオネ 56人
アフガニスタン 60人
妊産婦の年間死亡者数(10万人あたり)
日本 6人
米国 11人
中郷 45人
シエラレオネ 2100人
アフガニスタン 1800人
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途上国ではよく「スラムへ行けば銃を買える」という言葉を聞きます。
スラムには戦場などから逃げてきた難民が暮らしていることが多いので、
彼らが故郷から銃を持ち込むことが多いのです。
また、スラムの治安の悪さから、住民たちが自衛のために積極的に武器を所持していることもあります。
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臓器売買が良いか悪いかは色々意見はありますが、
実際に提供する側の儲けは決して大きいものではありません。
インド、パキスタン、フィリピンで聞き取り調査をしたことがありますが、
提供者が腎臓を提供して受けた報酬額は、おおよそ十万円から二十数万円
といったところです。
もちろん、スラムの住人にとってみれば、それは数年分の年収に値するわけですが、
日本人の私たちからすればこの金額に複雑な思いを抱かざるを得ませんよね。
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イラク戦争が始まって以降、アメリカはイラク国内に軍隊を大量に駐屯させていました。
軍隊がやってくると、そこに様々な需要が生まれます。
食事を作る人、物資を運ぶ人、道路を整備する人、水道・電気工事をする人、(略)
アメリカ政府はそうした労働力の全てを自国から連れてくるわけにはいきませんよね。
ーー中略ーー
そこでアメリカをはじめとした各国の軍隊は、途上国の貧しい人たちをリクルートするのです。
先進国の人が月給20万円で戦場に行くことは少ないでしょうが、
途上国の貧しい人なら危険があっても一攫千金の機会だと思って喜んでいきます。
ただ、一国の政府がこうしたリクルートを露骨にやると問題になる可能性があります。
そこで、政府は専門の人材派遣会社を何社も通して途上国から労働者を集めるのです。
ーー中略ーー
戦争が始まったころ、イラクで12人のネパール人が
テロリストに殺害されるという事件がありました。
彼らはみな労働者として出稼ぎに来ていた人々でした。
事件の後、ネパール国内では、民衆が暴動を起こしてアメリカ大使館を襲撃しました。
彼らは、「アメリカは勝手に戦争を起こして、俺たち貧乏人を次々に戦場に送って、
テロリストの餌食にしている」と怒ったのです。
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都市には大勢の外国人出稼ぎ労働者がいます。
そうした人々が怪我をしたり、会社が倒産してしまったりすることで、
職を失って路上生活者になることがあるのです。
皆さんの中には、外国人だったら大使館へ行って強制送還してもらえばいいじゃないか
と思う人もいるでしょう。
しかし、彼らには深い事情があって、異郷の地で路上生活者になることを余儀なくされているのです。
かつてマレーシアで会ったインド人路上生活者がそうでした。
彼らは首都クアラルンプールにやってきて、建築現場で働いていたのですが、
腰を痛めて働けなくなり、路上で暮らすことになったのです。
私はそんな彼に「なぜ帰らないのか」と尋ねました。
外国で路上生活をするなら母国に戻ったって同じじゃないかと思ったのです。
彼は次のように答えました。
「俺は莫大な借金をして、この国にやってきたんだ。
俺からの仕送りが止まれば、代わりに家族が返済しなきゃならなくなる。
おそらく今頃は妻や娘が体を売って借金を返しているだろう。
そんなことをしてしまった俺が今さらどんな顔をして故郷に帰れるというんだ。
もうここに残るしかないんだよ」
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珍しい動物というのは天然記念物として保護指定がされているはずです。
トラにしても、サイにしても、象にしてもみんなそうですよね。
それが薬になっているということは、誰かが密猟しているということなのです。
では、一体誰が精力剤として密輸しているのでしょうか。
実は、ここにゲリラ組織の影があるのです。
たとえば、アフリカには様々なゲリラ組織があります。
ソマリア、チャド、ウガンダ、ルワンダ、スーダンなどの国に潜むゲリラ組織です。
彼らは軍資金を手に入れるために、機関銃を担いでアフリカの国立公園へ赴き、
天然記念物とされている動物の密猟を行い、
密輸業者を通してそれらを中国などへ海外輸出しているのです。
その収入が戦争をするための銃の購入費や傭兵の給料になって、
アフリカの内戦を支えているという考え方もできるのです。
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途上国では、一般の人達はストリートチルドレンをかわいそうと思いつつも、
ギャングのような子もいるために怖がって近づこうとしません。
こうなると、普通に物乞いをしていても喜捨をもらえません。
そこでストリートチルドレンの中でも真面目な子供は、
不良グループとは違うんだという所を見せるために、靴磨きや演奏家になります。
人々はちゃんと働いている子にお金を与えたいと思いますから、
自然とそういう子どもたちにお金が集まります。
すると、他の子供達もそれを真似して次々と靴磨きや演奏家に「転職」するのです。
こうやってストリートチルドレン専用の職業ができるのです。
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少年兵は私の横に座って煙草を二本同時に吸いながら、
「俺は少年兵の中で一番強いんだ」とか「俺がもっともボスに信頼されているんだ」
というようなことを自慢していました。
私はすぐに彼が少年兵であることに酔っているタイプだと察しました。
そこでどうして兵士になったのかを尋ねてみました。
彼はカラシニコフの銃口の上に顎を乗せて煙草を吸いながら答えました。
「町の路上にいたって、誰からも相手にされずに死んでいくだけじゃないか。
だけど、軍隊にいればみんな僕のことを必要としてくれるだろ。
働けば働くだけ褒めてもらえる。
偉くなることだってできる。
だから自分の意思で加わったんだよ」
これを聞いた時、頭を殴られたような衝撃を受けました。
私たちは町で子どもたちが横たわっても目を逸らして通り過ぎていきます。
彼らはそこで感じた孤独や絶望を、ゲリラ組織に入って埋めようとしていたのです。
いわば、私たちが彼らをゲリラ組織に入らせたようなものではないでしょうか。
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GDPにおける売春の占める割合
韓国 5% (中央日報より)
中国 6% (Record Chinaより)
アフリカや東南アジアの途上国における割合はさらに上がるはずです。
フィリピンでは十%以上と言われており、国によっては十%以上になることもあるでしょう。
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その他に、移民の問題もあるでしょう。
全世界には華僑だけで五千万人、印僑で二千五百万人いると言われ、
世界の各都市に中華街やインド街が存在します。
彼らが現地の売春婦より、同じ民族の売春婦を抱きたいと思うことも少なくないでしょう。
そこで、中国やインド本国から、外国にいる華僑や印僑を狙って
売春婦がやって来るようになるのです。
これと同じ事は、かつての日本でもありました。
日本が貧しかったころ、多くの人びとが移民としてアメリカや中国や東南アジアへわたりました。
その時、日本人売春婦もまたそこでの需要を期待して海を渡ったのです。
面白いことに、1万円札の福沢諭吉はこうした売春婦移民論に賛成していました。
彼のこんな言葉が残っています。
「賤業婦の外出は決して非難するべきにあらざれば、移住の奨励と共に、
その出稼ぎを自由にするは、経世上の必要なるべし」
(「時事新報」「人民の移住と娼婦の出稼ぎ」より)
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グローバル化の時代の中で、売春ビジネスが国境を超えて広がっていっていることは
お分かりになったと思います。
ひとつ忘れないでいただきたいのは、
このグローバル化の波は日本にも押し寄せてきているということです。
近年、日本にやってくる外国人の数はどんどん増えています。
(略)平成十年には約四百六十万人だったのが、
十年後の十九年には倍増して九百万人を上回っています。
こうした傾向は今後ますます加速していくはずです。
もちろん、このように来日する外国人の中には春をひさごうとする貧しい女性もいます。
東京の繁華街へ行けば、中国人、韓国人をはじめとして、
南米のペルーやブラジルやコロンビア、アフリカのナイジェリアやケニアやタンザニア、
東南アジアではタイ、フィリピン、マレーシアなどありとあらゆる国から
やってきた女性が夜の街で働いています。
日本の売春の世界では、すでにグローバル化が
一般社会より進んでいると言えなくもありません。
このような時代の中で、途上国で起きている出来事を他人事と捉えるのは安易です。
たとえば、日本のエイズ発症者の十二・六%が外国人というデータが有るのをごぞんじですか。
このことは、途上国で起きている問題が、グローバル化の波に乗って
日本にも押し寄せてきていることを示しています。
海外で生まれ育った人々が現地の問題を伴って日本にやってくることで、
同じ問題が日本でも発生することになるのです。
他所の国での出来事は決して「遠い場所で起きている無関係な事件」
ではなくなってきているのです。
今まで講義の中でみてきたその他多くの貧困問題でも同様です。
売春婦だけでなく、途上国の人々の多くが貧困から逃れるために海外へ出ようとします。
その中には、スラムで暮らしていたような人もいれば、
ストリートチルドレンから這い上がったような人もいるでしょう。
彼らは偽造パスポートで入国してきたり、密輸船に隠れてやってきたりします。
このような人々が日本に来てすぐに正規の職に就くのは困難です。
ーー中略ーー
たとえば、日本に不法滞在する外国人がこう言っているのをごぞんじですか。
「日本は平和ボケしているから何でも盗みたい放題だ。
もし母国で捕まったらその場で射殺されるけど、
日本なら監獄の中で美味しいご飯まで出してもらえる。」
「日本人男性はコンドームをしません。
私の国じゃ、二重につけるのに。
たぶん、日本人はHIVのことを全く知らないのでしょう。
でも、日本にいるアフリカ人だってアジア人だって、みんなやばいですよ」
日本に来る外国人が全員悪いと言うつもりは毛頭ありません。
しかし、残念なことにほんの一部の人が悪行に手を染めていることも事実なのです。
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絶対貧困 石井光太
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