元外交官である岡崎久彦さんの本
タイトルどおりの内容が直球で述べられているのかとおもいきや、
日本の近代史、特に日清・日露戦争の背景を中心に歴史的事実を通して
戦略的思考とはなにかを問いかけている。
最終的には、日米安保を基軸にして行こう、という考えでした。
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日本の対外戦略を歴史的に振り返ると、古代から以下のようになっている
、と著者は指摘しています。
力関係が我が方に有利なときは先方が下手に出るのでコロコロ喜んで、出兵しない。
力関係が逆転して先方が高姿勢に転ずると今度は怒って攻めようとする。
これでは情勢判断も戦略もない、驚くべき単純思考です。
よくこれで千二百年間やってこられたと思います。
国際環境の厳しい国ではとても考えられないことです。
いまでも、日本周辺の客観的軍事バランスと無関係に、
むしろ国内事情を中心に日本の戦略を構築しようとしう発想がしばしば出てくること
の背後にはこういう歴史的伝統があるのでしょう。
一般的に日本の旧軍の欠点として、アングロ・サクソン風の情報重視戦略でなく、
プロイセン型の任務遂行型戦略を採用したことが指摘されています。
つまり勝てそうかどうかの見極めをつけてから戦闘を行うのではなく、
与えられた兵力で与えられた任務をいかに遂行するかを考えるということです。
ここまで
これ、旧軍だけじゃなく、たとえば日本の会社・会社員の思考もこんな感じで考えがちですね。
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一般的にいって、帝国主義時代の列強の考え方は百パーセント悪意に解して
まずまちがいありません。
悪意とういよりは、それぞれの国の国益本位の徹底した利己主義です。
これは帝国主義時代にかぎらず、歴史のすべての時代において
国家関係の基本をなすものですが、時代とその場の状況によって、
これが表に出ないこともあるので、帝国主義時代の歴史は
権力政治(パワー・ポリティクス)の基本形として参考になるものです。
もう今は二十世紀で十九世紀ではないという人もいますが、
人類の歴史はそう簡単に本質が変わるものではないでしょう。
二十世紀の歴史家が振り返ってみて、
「力と国権主義の時代であった十九世紀と較べて二十世紀は道義と国際主義の時代だった」
、と皮肉でなく言う可能性はまずありません。
二つの大戦とイデオロギーを異にする東西国家群の対立、
ナショナリズムが先進国だけでなく全世界的に拡大したこと
を主題とする歴史観にならざるをえないでしょう。
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ヨーロッパの勢力拡張時代におけるこの「無主の土地」の発見、占有という考え方は、
現在に至るまで国際政治の上に問題を残すことになります。
とくに、ヨーロッパの植民地になってしまったアジア、アフリカの国々にとっては、
何千年来自分たちが住んでいた土地を「無主の土地」といわれて「発見されて」、
占有の根拠とされたのではたまったものではありません。
ヨーロッパ諸国の一つが、たとえばカムチャツカを発見して占有したということは、
競争関係にある他のヨーロッパ諸国に対しては意味のあることですが、
カムチャツカの先住民族にとっては単なる侵入、不法占拠です。
つまり、キリスト教を信ずる白人以外は国や民族としての法的主体でない
と考えない限りは、本来成立し得ない法理であったわけです。
戦後、国連憲章が十九世紀以来の国際法秩序を基礎として内政不干渉の原則
を高く掲げていたにもかかわらず、アジア・アフリカ諸国が、
数を頼んであとからあとから植民地解放の決議案を提出し、
植民地解放宣言まで採択したのは、一見無理を通しているように見えましたが、
むしろ旧来の国際法理の裏の方にも、こういう歴史的な無理があったのでしょう。
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ド・ゴールが、アメリカという国は天下の大事に、幼稚な感情(モラリズム)と
複雑な内政事情をもちこむと、喝破したとおりです。
こういう点については米国の中でも反省はあります。
ジョージ・ケナンは「アメリカン・ディプロマシー」の中で、
上のような事実関係を全部認めた上で、
「米国の政治家は、道徳的な原則を、それが実際上非現実的なものであっても、
無責任に打ち出す。
その結果言われた方は困るのだが、もし言うことを聞かないと
国際世論の中で恥をかかせるようにさせ、他面、言うことを聞いた国にとって、
その結果問題が生じても、それはその国が解決すべきこととして助ける気は全くない。
こうやって、中国大陸における日本の地位を、単なる道徳的な信念から、
毎年毎年やっつけてきたが、その間、日本や中国の内情、
日本の力が極東のバランス・オブ・パワーに及ぼす影響など、
実際の問題を考えることはほとんどなかった。
日本の挫折感が軍国主義に走らせることにも関心がなかった・・・」などと述べた。`
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戦略的思考とは何か 岡崎久彦
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