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Channel: 読書は心の栄養
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貧困に関するテレビと現実の違い

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日本の撮影クルーはスラムの子供がゴミ拾いをして生活している光景を映して
「貧困の中でも明るく元気でいきるたくましい子どもたち」
というテーマを形にしようとしていました。

さて、そんなスラムの子供の中に、メイちゃんという10歳の女の子がいました。
メイちゃんは病気の父親と二人で暮らしていました。
母親も兄弟もいなかったのです。
家計は彼女が廃品回収で稼ぐお金でなんとか成り立っていました。
撮影クルーは彼女がゴミの山の中でたくましく生きる姿を追っていました。
あるとき、ディレクターがメイちゃんにマイクを向けて、
「どうしてそんなに明るく生きていけるのかな」
と尋ねました。
彼女はこう答えました。
「仕事は大変だよ。けど、悲しんでいても生きていけないよ。
だから、今を笑って生きたいの」

ディレクターはこのセリフにしてやったりの笑顔を浮かべました。
番組で使えると思ったのでしょう。

ーー中略ーー
撮影は無事に終わり、数カ月後に放送されました。
ーー中略ーー
私は撮影クルーが帰った後も、そのスラムに残りました。
別に調べたいことがあって残ったのです。
一週間、二週間と暮らしているとメイちゃんの家庭の別の側面が見えて来ました。
それは毎晩十時すぎに起きました。
寝静まると、どこからともなく中年女性が髪を振り乱してやってきて、
メイちゃんの暮らす粗末なバラックの壁を棒でもって叩くのです。
大きな石を投げ込んだり、火をつけたりしようとしたこともありました。
そのたびに、近隣の住人が駆けつけ、彼女を殴りつけて追い返します。
ひどい時には、血が出るまで殴り続けることもありました。
最初、私は中年女性をスラムに暮らす知的障害者だと思っていました。
ところが、ある日メイちゃんからこんなことを言われたのです。
あの女性は私のお母さんなの。
お母さんは住人ぐらい子供を産んだんだけど、私以外はみんな死んでしまったの。
お母さんはそのせいでおかしくなって、私のことを『魔女』だって言い始めたの。
私が赤子の生気を吸い取っているから、赤子が死んじゃうんだっていうのよ。
お父さんは怒って変になったお母さんを追い出したわ。
けど、お母さんは私を殺せば他の子供が蘇ると思っていて、毎晩実家を脱走しては殺しに来るの」

絶対貧困」 石井光太 より


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