ご存知イギリスの元首相、マーガレット・サッチャーの回顧録
回顧録というのは、特にこうした一国の首相・大統領が書くものは一級資料として価値がとても高い。
「彼ら彼女ら自身」がどのように考えていたのか
ということを知る上では非常によいものです。
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詩人キプリングの詩集「ノルマンとサクソン」からの一節
サクソンはわれわれノルマンのようではない。
サクソンのマナーはあまりていねいではない。
だが、彼は正義と公平を口にするまでは、決して何事も真剣に取り合わない。
彼が不機嫌な眼でお前を見据え、畦道の雄牛のように立ち上がり、そして
「これは公平な取引ではない」と不満の声をあげる時、
息子よ、サクソンには近づくな
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(国連のような会議での)誰もが平和事態が唯一の目的であるかのように話をした。
しかし、自由と正義のない平和は平和とはいえない。
われわれがフォークランドで証明したように、自由と正義がかつためには平和を犠牲にすることが必要なときもあるのだ。
また軍備競争について語る時、防衛力の進歩を遅らせることが平和をより確実なものにするとでも言うような合言葉が、よく使われていることも知っていた。
しかし歴史は事実がその正反対であることを繰り返し証明していたのだった。
私はルーズベルト大統領の言葉を引用することから始めた。
「自由に生まれ、自由を信じるわれわれは、ひざまずいて生きるより、立ったまま死にたい」
そして、核戦争は確かに恐ろしい脅威だが、通常の戦争は恐ろしい現実であることを指摘した。
アメリカによって広島と長崎に原爆が落とされて以来、核兵器が使用された戦闘はない。
しかし、通常兵器によって戦われた約140の戦闘でほぼ一千万人に近い人々が死亡しているのだ。
平和への根本的な危険は、特定の兵器が存在することではありません。
現実の、あるいは想像上の「軍備競争」にあるのでもありません。
武力に訴えることによって相手に変化を押し付けようとする一部の国家の意向にあるのです。
侵略国は、敵がその武力を強化したからといって戦争を始めるのではありません。
平和を存続するより戦争をしたほうが得るものが多いと考えるから戦争を始めるのです。
軍備が、または軍備に関わる行動だけが戦争の原因となるのだとは思いません。
戦争の道具に焦点を当てることにより戦争の惨事を防ぐことができると考えることは、誤った分析であることではなく、責任の回避です。
軍備は原因というよりも、兆候であることが多いのです。
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日本の政治はまだ特異なものである。
指導者は派閥間の話し合いから”出現”する。
決定は論争ではなく徐々に形成される合意によって下される。
日本を国際的な場面での重要な役者に仕立てあげた功績のある中曽根氏も、与党自由民主党のほかの派閥の指名者に政権の番が回らなくてはならないという因習を打破することは出来なかった。
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海部氏は二度文部大臣を務めた経験があり、私達は特別の分野で共通するものをもっていたわけだ。
彼は社会問題、特に家庭の崩壊、人口の急速な高齢化という人口動態の変化に対応する必要について雄弁に語った。
これらは私の頭を次第に占めつつある問題でもあった。
しかし私は、日本のように共同体意識や物質的な進歩を伝統的な価値への愛着と組み合わせる能力が発達している国は、何らかの方法で欧米文化よりもこうした挑戦にうまく対応できる備えができているのではないかと感じた。
日本は先進国世界のなかでは凶悪犯罪が最も少ないこととこれを結びつけて考えていた。
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EC(現在のEU)について
連邦主義と官僚主義の底流にあった勢力は、社会主義者とキリスト教民主主義者の連立政権として
フランス、スペイン、イタリア、ドイツで力を増しつつあり、
それが統合のペースを決定していた。
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スコットランドの経済情勢に関しては、一般に考えられている以上に、いい数字が残っている。
が、その本質を最もよく表しているのは、地方自治体が高額の補助金を提供している公共住宅に、全人口の約半分が生活しているという事実である。
イングランドでそうした恩恵に預かっているのは、人口のおよそ4分の1にすぎなかった。
いいかえれば、スコットランドの住民は、国家への依存度が極めて高かった。
国家に依存する度合いが高ければ、社会主義に傾きやすい。
スコットランドの左派は以前独自の地位を築いており、危険を覚悟で果敢に行動していた。
労働党と労働組合は、官庁にしっかりと根を張り、地方自治体、QUANGO(準独立政府機関)、果てはスコットランド省に至るまで、あらゆるレベルに影響力を持っていた。
実際、聖職者の推挙権までが右派ではなく左派の手に握られてしまった。
彼らはカトリック、プロテスタントの両教会を通してその主張を表明、
マスコミにそれを機械的に繰り返させた。
したがって、スコットランドでイギリス政府を支持する新聞は殆ど無く、
テレビ、ラジオはたいてい敵意をむきだしにしていた。
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