上海総領事だった著者の中国との仕事での関わりと状況を綴った本
著者はこの本を出してまもなく末期がんで亡くなっておられます。
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さらに深刻なのは、日本以上に基金が破綻している年金問題である。
中国の隠れた不良債権問題とは、じつは年金問題のことで、
日本以上のスピードで高齢化社会が進んでいる中国では、今の受給者が、
現役世代が支払っている分をすでに食いつぶしているのである。
現役世代が年金受給者になるころ、いやそうなる前に、
破綻するのは目に見えているわけだ。
そのうえに、単位ごとに年金を積み立てて各人に還元してきた仕組み
を解体する過程で不祥事が続出している。
たとえば、国有企業が民営化する際に、従業員たちが積み立ててきた年金基金が
消えてなくなるといった事件が各地で起きている。
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園田外相は一枚のメモに背中を押されたかのように、尖閣諸島問題を切り出した。
尖閣諸島についての日本の基本的な立場を証明し、
先般発生した漁船の領海侵犯事件は遺憾であり再発は困る
と園田外相が迫ると、鄧小平は「ああいう事件を再び起こすことはない」と確約をした。
尖閣諸島の領有権の問題については、鄧小平は
「いままでどおり、、十年でも、二十年でも百年でも脇においておいてもいい」
という言い方をした。
之と同じようなことを10月に批准書交換のため来日した時の記者会見でも
鄧は言っている。
そのときは、「われわれの世代ではまだ知恵が足りない。
次の世代ではわれわれも賢くなるだろう。
お互いが将来に解決を任せればいい」
という言い方をしている。
要するに、鄧小平としては、この問題は今解決すべき問題ではない、
だから、触らないという立場を貫いた。
ここで日本側が領有権を認めさせたかどうかという解釈の問題になるわけである。
日清戦争後の下関条約によって台湾が割譲される前に、尖閣諸島は日本が国際法上の
「無主物先取」の手続きに従って日本国の領土として正式に編入し、
その後、日本人が島でカツオブシ工場を運営するなど実効支配をした。
敗戦により一時米軍が沖縄本島と同様に尖閣諸島についても施政権を行使、
実際に軍の射撃場に使っていた。
それが72年に返還協定で日本側に返され、
その後も一貫して実効支配しているというのが日本の立場である。
中国はそれに対してチャレンジしない、何も触らないと表明した。
日本としては、日中間にはそもそも尖閣諸島をめぐる領土問題は存在しない
という立場だから、中国側が自分たちのものだと言い出さない限りは、
それで結構だということになる。
したがって、そういうチャレンジをしないならば、尖閣問題はクリアされたことになる、
というのがわれわれの解釈だった。
しかしである。
92年、中国側は、全人代で領海法を批准し、その中で尖閣諸島について
自国領海であることを謳うという挙に出た。
明らかに園田・鄧小平会談での合意を変更してきたのだ。
中国としては、それまで日本側が実効支配をさらに強化するような措置を取らないならば、
中国側も触らないという暗黙の了解をしたはずであった。
その立場を換えて一步踏み出してきたのである。
もちろん日本側は、「認められないこと」を申し入れたが、言葉だけで、
それ以上のアクションは起こさなかった。
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学校の建て替え要請が地方政府からどんどん上がってくるようになったのは、
中央(対外経済貿易部)の要請を通さずに、地方から直接要請を受けるシステム、
「草の根無償資金協力」を創設したからだ。
プロジェクト一件に一千万円規模と定められた草の根無償は1991年からスタート、
現在までに五百件以上のプロジェクトを実施し、
中国の品行地域において三百件以上の学校建設を支援してきた。
中国では、一般に地方の農村に行けば行くほど通学には不便な環境になっている。
近くて通えればいいが、寄宿舎住まいを強いられる場合も多い。
寄宿舎に入ると賄い費が必要で、農民の子供ではまず支払えない。
教材費、寄宿費などの教育費が払えないために、
義務教育を断念する子供が膨大な数にのぼっている。
中国は義務教育制度と言いながら、国家の負担分は三割で、
七割が地方負担になっているが、財政難により、結局、
個人負担を強いられているのが現状である。
前述した寄宿舎の食糧費などが個人負担であるのが当然だが、
実際には子どもたちは義務教育の教科書代を払い、
最近では、試験の紙代まで徴収されるというひどい話も増えている。
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農民には、日本の農業協同組合のような政治的圧力団体が存在せず、
WTO加盟交渉やFTA交渉において農民の利害は常に犠牲にされてきた。
私は当時中国政府がWTOの農産物関税の一律引き下げを
あっさりと受けいれてしまったことに驚いたものだ。
ーー中略ーー
都市において100%の財政で面倒を見ている義務教育についても、
農村は大変な負担を強いられている。
中国全体の8割の小学校、6割強の中学校が農村地域にあるが、
中央政府による農村の義務教育非負担率はわずか2%にすぎない。
義務教育とは名ばかりであることが分かる。
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朱鎔基時代に人民解放軍は企業活動から完全に切り離され、
従来行なってきた各種の合邦・非合法活動による豊富な資金獲得の機会を奪われた。
そのため、党としては軍の予算要求を受け入れ、
毎年二桁台の伸びを認めざるを得なくなっている。
解放軍から企業を切り離した際、軍を離れ膨大な資産を形成した一部の「勝ち組の元軍人」と、
逆に劣悪な企業を任され没落した大多数の「負け組の元軍人」にわかれ、
負け組の殆どは切り捨てられた。
また、軍人の数が80年台の430万人から現在半分近くの約230万人に削減されており、
退職軍人の取り扱いが大きな問題になっている。
ーー中略ーー
91年の湾岸戦争におけるアメリカ軍のハイテク兵器の威力を目の当たりにし、
解放軍の近代化は急加速した。
コンピュータを駆使できる学歴の高い兵士の育成と高額なハイテク兵器調達が不可避
と判断した解放軍中枢は、低学歴の農村出身兵士の大量削減に踏み切った。
だが、そのことが地方の軍区を中心とする毛沢東以来の人民戦争の思想に基づく
旧来型の軍人との対立を生んでいる。
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もしも、総理がこれまでの中国側の非難に応じ、中国における在留邦人の安全
あるいは日本企業の円滑な経済活動の確保を理由に靖国神社参拝を中止することになれば、
中国側特に政権内部の対日強硬派は、
「日本という国は経済利益のためには国の面子も捨てる」と受け取ってしまう可能性がある。
ーー中略ーー
やや極端な議論かもしれないが、国際テロリストが日中間のこのようなやり取りを見て、
日本は経済的な利益のためには「国としての大義も捨ててしまう」国だと誤解してしまう
恐れもあるだろう。
そうなると、外国における日本人の生命・財産を人質にしたり、
日本企業を脅迫することにより、日本から経済的あるいは政治的な要求を満たそうとする
国際的テロ行為を誘発する危険性すら出てくるであろう。
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なかでも上海で特徴的なのは、死亡案件の多さだ。
巷間ではあまり問題視されていないようだが、私が上海赴任となった
01年から上海だけで毎年30人以上が死亡している。
04年は43名の日本人が無くなった。
毎年海外でなくなる日本人は500名ほど。
04年は564名だったが、そのうち上海の43名はいかにも多い。
これは異常な数である。
アメリカの大都市にせよ、北京にせよ、せいぜい年間で2,3人なのだから、
その十倍以上の日本人が亡くなったことになる
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大地の咆哮 杉本信行
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