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食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約

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6月21日、衆議院本会議において
食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約
の締結について承認を求めた模様で、全会一致で承認されました。
全会一致であることから、さすがに参議院でも普通に通るので、
このまま参加が決定されることでしょう。

条約の名前からみて、遺伝子組み換え関連かな?と思って調べてみたところ、
違いました。(このPDFがわかりやすい)

この条約の趣旨は、農作物の品種改良等(おそらく遺伝子組み換えも含む)で、
その元となる農作物の種子の原産国に利用料を支払いましょう、というものです。

これまで、植物遺伝資源は、人類共有の財産である、という考えのもと、自由に使用してきました。
これは、何を意味するかというと、
Aという国の作物を品種改良して、売れる作物をBという国の企業が開発したとします。
その利益は全てB国の企業のものでした。

しかし、1993年、生物多様性条約が発効され、原産国の資源である、という考えに変わりました。
すると、先ほどの例で言うと、B国の企業はA国に対して使用料を支払う必要が出てくるわけです。

ただ、このときは今までと大きく異なる考えだったので、どういう仕組にするかも不明で、
実質的には変わりませんでした。
2001年、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約が発効され、
EUを含む127カ国が現在までに参加しています。


これに、日本も参加しますよ、というのが今回の承認です。

では、これによって実際にどういう仕組で利益が分配されていくのでしょうか。

私の国にはこういう植物がありますよ、というのをその国のジーンバンクに登録します。
上の例で言えば、A国のジーンバンクです。
A国のジーンバンクは新しく登録されると、その内容を当該条約事務局に報告します。
つまり、ある品種の作物、たとえばコシヒカリが一体どこの国のものなのか
(品種によっては複数の国にまたがることもあるでしょうか?)が、
条約事務局に一元管理されることになるわけです。

そして、この条約を締結した国というのは、品種改良等を行う場合においては
無条件に利用を許可することが求められることになります。
この段階で、その種を利用しようという国、上の例ではB国、は
「簡便」にその品種の情報を取得することができます。

B国でA国の作物を品種改良して新しい作物を開発したとします。
それを市場で販売した売上の一定割合(0.77%)を
条約事務局内の基金に支払うことが義務付けられます。
つまり、B国からすると、A国の作物の利用料を支払う、という感覚です。

集まった基金は開発国の農業保全のための研究等に使われることになります。
A国が途上国であれば、そのまま還流してくるわけではないものの、
間接的に利用料をいただくことができるわけです。

ここまでがその条約の内容になります。
外務省がこの条約締結を急ぐ理由は、外務省HPによると、
「EUを含む127カ国が現在までに参加している」ためだそうです。
このままではわかりにくいです。

以下は私の考えです。
日本の科学技術力は非常に高い
今後の農業の発展のためにも、素晴らしい品種を開発して付加価値を高めたい。
自国の品種だけを活用していては、その品質に一定の制限がかかります。
そのため、他の国の品種も活用したいところです。
そこで「多くの国が活用」している本条約の存在です。
多くの国が活用している、ということは
多くの国が既に自国の品種を条約事務局に登録している、ということであり
我が国の企業が外国の品種に対する情報を取得するのが非常に簡便になります。

これが、外務省の考える利点なのだと思います。

私は、これ以外にこの条約のいいところは、
国家間での利益の再分配が行われる、
というところにあると考えています。

これまで先進国が稼いだお金が途上国に使われる場合、
それは援助という形をとっていました。
それが、「正当な利用料」という形で途上国に分配されていく
しかも有用な品種を持ち合わせていない途上国であっても、
基金を通じてお金が行き渡る、という意味において
非常に有用で画期的な条約なのではないでしょうか。

これまで一国の中では税金を通じて富の再分配を行なっていましたが、
この条約を通じて、国家間での富の再分配が少し進む、という意味において
非常に有用なのだと思います。

さて、こうした試みに通常参加しない国が存在します。
それはアメリカ合衆国です。
ロビー活動などが活発なこともあって
自国企業の利益を最大化させる方向に進むこと
そして植物の遺伝子情報を特許で固めて利益を追求していることから、
食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約
ならびに生物多様性条約
については署名だけで、批准していないようです。

わが国が加盟した後には、
アメリカ合衆国がなんとかしてこの条約に加盟するよう働きかける必要があるでしょう。
そのためには、国際会議において
彼らのプライドをくすぐるような、そういう働きかけが必要でしょう。


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