力道山が開店以来の馴染みの店である「ニューラテンクォーター」に入店した頃には、泥酔状態であった。
ーー中略ーー
力道さんがトイレに立ったのは、それから1時間後、11時をまわった頃である。
洗面所を出た力道山は、狭い入り口で、入ろうとする大柄の男と鉢合わせする形になった。
すれ違いざま、相手を、
「ちょっと待て」
と先に呼び止めたのは、力道山のほうだった。
「オレの足を踏みやがって」
因縁をつけたのも、力道山である。
酒のなせる業だった。
「踏んだ覚えはねえよ」
男も突っ張ったのは、ヤクザである以上、安目を売るわけにはいかなかったからだ。
男は住友連合系組員であった。
「ぶっ殺す!」
「殺せるもんなら殺してみろ!」
男が懐に手を入れ、ナイフを抜こうとしたのを見て、力道山が少し怯んだ。
それまでの勢いが消え、
「わかった。まあ、仲直りしようじゃないか」
となだめようとした。
だが、男は収まらず、
「それじゃあ、おれはヤクザでメシが食えねえんだよ!オレの顔の立つようにしろ!」
と吼えた。その途端、
「なんだと、コノヤロー!」
力道山のパンチが飛んできて、男は数メートルもふっとばされた。
ーー中略ーー
うつ伏せになり、未動きが取れない身で、必死で体を半回転させると、左脇腹のベルトに差していたナイフに手が届いた。
そのナイフを引き抜き、なんとかしようと夢中でもがいているうちに、ナイフはのしかかってきた力道山の左腹部に突き刺さった。
力道さんが床にへたり込むように腰を落とすことで、ようやく男は解放された。
後ろも振り返らず、男は素早く地上へと通じる階段を駆け上がっていった。
左脇腹を刺された力道山の傷は、継承であるように見えた。
事実、力道山は何事もなかったかのように、自力で歩いてテーブルに戻ると、ステージに上ってマイクを掴み、
「皆さん、気をつけてください。この店には殺し屋がいます。」
と喚いた。
力道山が「ニューラテンクォーター」を出たのは、刺されてから10分ほど後のことだった。
力道山は近くの山王病院で応急処置をして帰宅。
ーー中略ーー
「実録 神戸芸能社」 山平重樹より
ここまで
結局この傷が元で力道山は亡くなることになる
ーー中略ーー
力道さんがトイレに立ったのは、それから1時間後、11時をまわった頃である。
洗面所を出た力道山は、狭い入り口で、入ろうとする大柄の男と鉢合わせする形になった。
すれ違いざま、相手を、
「ちょっと待て」
と先に呼び止めたのは、力道山のほうだった。
「オレの足を踏みやがって」
因縁をつけたのも、力道山である。
酒のなせる業だった。
「踏んだ覚えはねえよ」
男も突っ張ったのは、ヤクザである以上、安目を売るわけにはいかなかったからだ。
男は住友連合系組員であった。
「ぶっ殺す!」
「殺せるもんなら殺してみろ!」
男が懐に手を入れ、ナイフを抜こうとしたのを見て、力道山が少し怯んだ。
それまでの勢いが消え、
「わかった。まあ、仲直りしようじゃないか」
となだめようとした。
だが、男は収まらず、
「それじゃあ、おれはヤクザでメシが食えねえんだよ!オレの顔の立つようにしろ!」
と吼えた。その途端、
「なんだと、コノヤロー!」
力道山のパンチが飛んできて、男は数メートルもふっとばされた。
ーー中略ーー
うつ伏せになり、未動きが取れない身で、必死で体を半回転させると、左脇腹のベルトに差していたナイフに手が届いた。
そのナイフを引き抜き、なんとかしようと夢中でもがいているうちに、ナイフはのしかかってきた力道山の左腹部に突き刺さった。
力道さんが床にへたり込むように腰を落とすことで、ようやく男は解放された。
後ろも振り返らず、男は素早く地上へと通じる階段を駆け上がっていった。
左脇腹を刺された力道山の傷は、継承であるように見えた。
事実、力道山は何事もなかったかのように、自力で歩いてテーブルに戻ると、ステージに上ってマイクを掴み、
「皆さん、気をつけてください。この店には殺し屋がいます。」
と喚いた。
力道山が「ニューラテンクォーター」を出たのは、刺されてから10分ほど後のことだった。
力道山は近くの山王病院で応急処置をして帰宅。
ーー中略ーー
「実録 神戸芸能社」 山平重樹より
ここまで
結局この傷が元で力道山は亡くなることになる